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2010年5月26日 (水)

エピソード2「Like someone in love」

060226_15

MODERN ART」 ART FARMER

1958年9月録音

1、             MOX NIX

2、             FAIR WEATHER

3、             DARN THAT DREAM

4、             THE TOUCH OF YOUR LIPS

5、             JUBILATION

6、             LIKE SOMEONE IN LOVE

7、             I LOVE YOU

8、             COLD BREEZE

<Personal>

Art Farmer(Tp)

Benny Golson(Ts)

Bill Evans(P)

Addison Faemer(B)

Dave Bailey(Dr)

どうも、右よりのGのキーが戻りにくい、この暑さと湿気のせいかもしれないし、ここのところ調律も呼んでいないからか。

この1965年製のNYスタンウエイは格好だけはコンサートグランドで馬鹿でかい図体だ、手入れが悪いせいもあって不具合の個所が多い。

でもキーの重さだけはは天下一品だし、左手で低音部を押さえた時の音の深さと伸びはどうしようもないくらい心地よい。

 これがスタンウエイだと音は主張している。

稲妻が遠い、もうすぐ夕立か。降ったほうが幾らか涼しくなるだろう。

5時になると、「ヤマ」が日経新聞を片手に歩いて15分のところからやって来て、店の掃除を始める。

しばらくして、「長さん」がドィカッティでやってくる。キッチンの仕込みを始める。仕入れは長さんが自分で買いこんで来る、そんなに大量の仕入れをする訳では無いから自分で持ってくるし、そうでないと納得しない性質だ。

ゼンさんは店に下りてくると先ずレコードをかける、否、CDをかける。

5000枚ほどあるLPは今や壁の花で実際にはCDをかけている。

LPとオーディオにこだわる昔ながらのジャズ喫茶のオヤジもいるけど、生の音には勝てやしない。

演奏の合間にかけるにはCDが便利でよい。

アート・ファーマーの「モダン・アート」を店の棚にある2000枚程のCDから取り出した。

腕時計を見ると6時だ。外は夕立だ。

「雨の水曜日か、こりゃダメだ」、ヤマはつぶやいた。

8月の6時はまだ明るいけど、今日は別だ、入口のスポットライトが店の看板ロゴを照らしだしている。

看板には

OPEN 6:30PM

CLOSE 0:30AM

[KIND OF BLUE]

と書いてあるが、夜中の0時半で終わったことはない。

たいてい最後の客が出るのは2時頃だ。

ヨーコの来るのはいつも6時半ギリギリだ。慌しくヤマの手伝いをしてレジの準備をすると言っても大した準備なんて無い。

通常は彼女がCDを選んでかけたり、演奏が始れば切ったりするのが役目だ。

彼女は一階のレジにいるので、階下の状況を聴きながらこの作業を何気なくこなしている。

この日、最初の客が入って来たのは7時少し前だった。初めての客で男と女、20代後半の二人と見た。

今日初めてのお客、2人連れが入った時はまだ誰もいなかった。

最初は戸惑っていたが、ヤマがピアノの傍のカウンターにしますか、テーブルにしますかと聞く前にテーブルに向かっていた。

7時になると「あーぁ、濡れちゃった」と言って、常連の男三人がうるさく入ってきた。

入ってくるなり、「やーマスター」と言って代わる代わる握手をしてくるのはいつものことだ。

「今日はどうしたの、こんなに早くから」

「そこのすし屋にいたんだけど、急な夕立で、外を歩いてなんていられないもの」

3人はピアノの先端のカウンターに座ると後ろの2人をチョット振り向いた。

ヤマが慌ててテーブルの上のキャンドルに灯を点けている。

7時半になったところでピアノの音を出すことにした。今日は何から弾くか。

何かFのキーの曲と思いながら出てきた曲は「SMILE」だ。

チャップリンが映画モダンタイムスの曲として自分で作曲した。

でも出だしはDmだ、単純にDmを叩く気になれなくて、勝手なイントロを付けてやっとDmへもっていった。

以前、ゼンさんの好きなピアニスト菅野邦彦がよくやった手法だ、まるで出鱈目風なイントロフレーズから徐々にテーマへ持ってゆき、インテンポになる・・このリズムが入って左手が四つを刻み、右手がディレイして、ビハインザビートになる・・この瞬間がたまらない。

演奏は8時半に終わる。一回45分、これを守らないと一晩中弾き続けることになる。

スタンダードを弾き始めると一日中スタンダード、オリジナルを一日中弾き続けることもある。

でも店の湿った雰囲気のせいか、最後にはこれと曲を決めずにダルな「Fのブルース」を弾いていた。

店の中は半分くらいがお客で埋まっていた。

演奏が終わると喋り声が大きくなり、賑やかになる。

演奏中はやたらピリピリして真剣に聞き込まれてしまっても気恥ずかしいが、うるさいのも困る。

取りあえずはジャズが好きな奴しか来ない。

外はまだ雨だ。アンプをCDに切り替える。

CDはビル・エヴァンス「インタープレイ」(Riverside)、一曲目の「You&the night &the music」が流れる、Tp:フレディ・ハーバート、G:ジム・ホール、B:パーシー・ヒース、Dr:フィリー・ジョー・ジョーンズ)

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窓際の2人はまだ話し込んでいる。

ヤマがテーブルの上を何気なく確認して近づいてゆく。

「同じ水割りにしますか?」

「ええ、でもちょっとメニューを見せてもらえますか、ボトルを入れたいので」

「何にしましょうか」

若い男は店に並んでいるボトルをひと眺めして、赤いバラが綺麗に並んでいるバーボン、フォーローゼズをオーダーした。

常連になる第一歩かとヤマは内心思った。

ゼンさんは自分でボトルに名前を書くカードを用意して持っていった。

「これによかったら名前と連絡先を書いてください、ここ初めてですよね」

「ええジャズは最近聴き始めたんです、彼女がいいよというんで」

「私も最近になってから、それまではクラシックばかりで、ジャズって難しそうで良く解らなかったから、でも最近よくTVCMやドラマのBGMで流れるでしょう」二人だけの会話に飽きていたのだろう、シッカリとした口調で話し掛けてきた。

それまでは分からなかったが、彼女が下から見上げた顔には一瞬ドキリとさせる美しさがあった。

彫りの深い顔立ちにキャンドルの炎で陰翳がシャープに浮き出て端整な顔立ちは年齢以上に成熟した雰囲気を漂わせ、好奇心の強そうな大きな瞳が光っている。

「それで最近2人でCDを買って聴くようになったんだけど、やはり生の音で聴いてみたくて、でも気軽に行ける店ってないでしょう。入ると君たち分かって来ているの?ってそいう視線が飛んでくる。」

「そうだね、ジャズって言うだけで、理屈と知識をこねまわす奴が多いからね、単純に楽しめばいいのにね」ゼンさんは応えながら、この若造にはもったいない女だなと・・・。

「この店も入りにくかった、繁華街から離れていて、でも彼女が静かな隠れ家みたいで行ってみたいって、ドアーを開けてだれもいないので躊躇したけど、良かったこうしてマスターと話せて、あっ、マスターですよね」

「はい、これ」と店のカードを二枚テーブルの上に置いた。

濃いブルーの地に金文字が浮き出ている。「Kind of Blue」

「綺麗なカードですね」彼女が反応した。

ゼンさんは得意げな笑みを返して、テーブルを後にした。

<続く>

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コメント

Like someone in love・・・なかなか良いタイトルですね。
誰の歌、演奏が印象的ですか?

しかし、またまた始めたこの荒唐無稽のお話・・以前のように進んでいますが、どこかで脱線するのでしょうか・・・皆さんのコメント次第です。

続きが読みたくて、前のブログ読んでしまった!

SHIMIZUさん

すいません、ノンビリと書きますので、でもどこかが古いヴァージョンとは異なっています。
少しは推敲、校正を加えてもおります。
因みに古いヴァージョンのアドレスはお消しください。

はい、わかりました。

また、続を楽しみにします。

SHIN様
ライク・サムワン・イン・ラブ、良い曲ですね。
アート・ファーマーやブレイキーの演奏が好きです。
最近は、スタン・ゲッツとケニー・バロンのピープルタイムに収録されている、ライク・サムワン・・・をよく聴いています。

リンク、有難うございました。
ただ、トップページではなく表紙(ホーム)にリンクを貼って頂きたいのですが・・・。
http://homepage2.nifty.com/COFFEE_POWELL/

こちらも、リンクさせて頂きました。
私の独断と偏見でリンクコメントを書きましたので、訂正があれば教えて下さい。

KAMIさん、了解しました。

ホームとトップのどちらに貼るかという項目があったのですが意味が分からず、勝手にトップにしました。
いま、この管理ページを探したのですが、行方不明です。
後で探して修正します。(笑)

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