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2010年6月28日 (月)

エピソード14:「ハウストリオが結成された」の巻

<前号より続く>

夜中の0時をもって音だしが始った。

ピアノ、赤木武大、ベース 山田 宏、ドラム 大野 寿和

このジャズクラブの名にふさわしく、最初の曲は「SO WHAT」から始った。

ベースの山田君は緊張感が取れ、リラックスし、音が伸びやかだし、ピアノの赤木君も久々にトリオで気合が入っている。ドラムの大野も気分が高揚しているのが分かる。

そんな気分の中で、「SO WHAT」が抑え気味に始まった。

ピアノトリオでやるこの曲も面白い展開だ。ピアノとベースのやり取りになる。でもテーマが終わりソロに入ると赤木君のピアノが何時に無くスイングしドライブする。テンポもいいのだろう、オリジナルより早めのテンポだ。

次に始まったのが何と「ビリーボーイ」だ、何かお店の名前に因んで選曲したみたいだ。

「ビリーボーイ」はアルバム「マイルストーン」の収録曲だ、でも1960年に「モードスタディ」というアルバムが発売された、これは「KIND OF BLUE」と「MILESTONE」の二枚組みを2000円で売り出した物で、見開きジャケットの中側にはモード手法とは何ぞやと言う解説つきで、確かリディアモードのスケールまで記載されていた。

B000056evj09_ss500_sclzzzzzzz_v1088 0時半を廻ったころ、アルトの大谷君が楽器をもってやってきた。

「今夜からハウストリオでやるんだって」と既に情報を聞き入れていた。

「では、最初のゲストで吹かせて」と言いながら、メンバーと曲を相談している。

曲は「ムーンレイ」と決まった。

大谷君の18番だ。綺麗にストレートに伸びる音がこのテーマに哀愁を加える、ローランド・カークとは叉別の味わいが出てくる。深夜に聞く「ムーンレイ」、店の中が静まった、キャンドルの灯りが、曲想を盛り上げる。

ヨーコが「上手くゆきそう」と囁いた。

ヤマちゃんも聴き手に廻っているし、厨房から長さんも顔を出している。

お店の中が、お客(聴き手)もスタッフも演奏者も一体になってJAZZをやっている。

ゼンさんは、これこそジャズクラブだと思った。

ジャズクラブはこの一体感が無いと意味がない。

この三者、どれが欠けてもだめ、三者でスイングしグルーブする、ここに意味がある、その為に奏者は楽器で語りかける、そして聴く者は反応する。

この、コミュニケーション、相互インプロバイズ、そしてアウフへーベンがJAZZだ。

このやり取りで、ソロ奏者は即興的に時として超人的フレーズをつむぎ出す。

今夜それがここで起こっている。

ライブ演奏の休憩時間に、常連の若者達の代表船田君が突然ゼンさんに聞いてきた。「ゼンさん、最近の若い日本人アーティストで誰がいいと思う?若手で凄いピアニストがいると思うんだけど」

「そうね、興味無いな、1回だけ聴けば充分というか、再度聴こうという気にならないんだ。テクもあるし、ピアノを弾くのは上手いとは思う、でももう一回聞こうと思わせないんだ」

「ヘェー、でも雑誌やジャズフェスでは話題ですよ、人気もあるし」

「人気ね、お祭りにはいいかもしれないね、派手で大立ち回りを見るようで、でもあのオボッチャンやお嬢ちゃんからは何も感じ取れないんな、だってあのオリジナル曲を何度も聴きたいと思う?」

「フレーズもテンポもリズムもカッコいいでしょう」

「そうね、僕はむしろ付き合っているベースやドラムのほうに興味があるな、あそこまでジャズにするサポート力がね」

「ゼンさん、繰り返し聴くジャズの条件ってなんですか」

「聴くのは曲や演奏ではないの、アドリブ、つまりインプロビゼーションを通じて語りかけてくるストーリーを聴きたいんだ、ジャズというフォーマットで、曲のイメージやストーリーを借りて、自分の生きてきた経験をもとに、即興で自分を語る、この物語の内容がいいと、何度でも聴きたくなる」

「内容って?」

「そう、スリル、意外性、愛も恋もあり、妖艶さもあり、甘さや、けだるさも、時にはエロティックな言い回し、そう良質な一冊の短編小説を読む楽しさ、これが演奏、ソロの短い小節の中に端的に表現できる、これこそがテクニックではないかと思うんだ、手や指が早く動けばいいというものでは・・・・」

「でもソロの間にそんな事を考えながら演奏しているんですか?」

「いや、考えてなんていない、感情を込めるということは、そこに自分の人生が反映されてしまうんだ、だから演奏を聴けば、上手い下手ではなく、良い生き方をしてきたかどうかで、自然に凝縮されて出てくる、これってクラシックでも同じではないかと思うよ。バラードやブルースを聴けば即に分かるね、その人の人となりが。」

あまり夢中になって話しているので、周囲の人達までが、ゼンさんに話しに聞き入っていた。

「そう、ヴォーカルなんて一発でわかるよ」と急に横から話したのは、例の大手企業の経営者、富田さんだ。相変わらず、ダンヒルのパイプ煙草をくゆらせながら、ゆっくりと話かけてくる。今日はタバコの香りが甘い匂いだ、葉は「アンフォーラ」かなとゼンさんは思った。

Jazz_roy_haynes

「まず、最近の若手は変なテクニックに走っているな、変拍子とかフリーキーとか、その中で複雑なキメを作って聴く側に悟られないように、驚かす仕掛けをやる、これは単なる自己満足だな、こればかりでは、何れは飽きられるね。」

ゼンさんは、年甲斐も無く夢中に現在のジャズの若手批評をしてしまったと内心恥ずかしかった。

「さあ、次のステージの時間だ」

写真は「ムーンレイ」の演奏で有名なロイ・ヘインズとローランド・カークの名盤、「Out of the afternoon」ジャケットはバンゲルダースタジオの裏庭という話がある・・・。

<次回に続く>

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コメント

ゼンさん曰く、この三者、どれが欠けてもだめ、三者でスイングしグルーブする

そんなアルバムが届きました。プリントされたアイドルのサインにときめいたのは中学生のころでしたが、この歳になって嬉しいのは直筆のサインです。ハクエイ氏は先日横浜で聴く機会がありましたし、大隈氏にはかなり以前にチャリートのライブでお会いしております。生沼氏の生音も聴きたいですね。

タイトル曲の「ウォーク・ドント・ラン」は、小生がジャズを聴くきっかけになったヴェンチャーズだけに特別な思い入れがあります。続く 「ウィズアウト・ユー」の見事なバラードプレイに涙です。

大隈氏の「今後の人生、これまで通りあせらず一歩一歩」自身に重ね合わせます。

ありがとうございました。

届きましたか、良かったです。三人がサインをする時に言っておきました、北海道に行ったらくれぐれもこの方には注意するように、さも無いと食べられてしまうから・・と。
特にハクエイ君のご両親は札幌住まいですからよく行きます。

そして、スイマセンが、「隈」→「隅」に変更して頂けますでしょうか・・・北海道ですから、クマは有名ですが・・・。

・・・CDや演奏内容はともかく、大事なところをお読みになっていないようで・・・ライナーノーツの最後には私の名前も出ております、そこだけ見て頂ければ・・・あとはどうでもいいことで・・・・して・・。

因みに、「With out you」はラテンの名曲で東京キューバンボーイズのテーマ曲ですが、大隅氏がどうしてもこの曲をやりたいと・・・しかし、若いハクエイ君は知らない・・何処かに譜面はないものだろうかと・・・こんな時必ずと言っていいほど連絡があり、「ねぇ、譜面かCD持ってない?」
はいはいと二つ返事で譜面を届けたものでした・・・。

ひどい時にはライブハウスの楽屋から電話があり「あのさ、いまブルースマーチのリクエストがあって、次のステージでやろうかとなったんだけど、コード判る?」
「ウン、判るよ」と電話口でコードを教えるしまつ・・・ヤツラとはそんな仲なのであります。

まあ、今後も宜しくお願いします、私の名前を言えばヤツラは直立不動で対応するはずです!
ギャハハハッ!なんちゃって!

ではそちらのブログの7月の再開を手ぐすね引いてお待ちしております。

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