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2010年6月25日 (金)

エピソード:13「ベースのオーディション」の巻

<ジャズ・クラブ「KIND OF BLIUE」のハウストリオをつくることに決めたゼンさん、ドラムの友人大野とベースを探すことになった・・・>

今週のジャケットは「レイ・ブラウン オールスターズ、ウイズ キャノンボール・アダレイ」この二人を主役にナット・アダレイ、アニー・ロイヤル、メルバ・リストン、セルドン・パウエル、ハンク・ジョーズ、オシー・ジョンソン、サム・ジョーンズ(ブラウンがチェロを弾く時はサムがベース、等など、キラ星の如くバックアップ陣が凄い、これで、ワークソングのテーマのメロをレイ・ブラウンがベースで弾いている。図太い音でいかにもベースという、今風のアンプを効かした音ではありません。フルバンド構成だけど、フルバンと感じさせない、コンボのノリで迫力満点、残念なのはCD化が未だです、要求しましょう、VERVE レーベルです。)

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2月の初旬の金曜日、ゼンさんは忙しく店内の装飾を直していた。コックの長さんがきて、仕込みを始め、ヤマちゃんが店に掃除を始める、ヨーコが6時過ぎにやってきた。

今日は大野がベースを二人アサインしたと言っていた、なんとなくワクワク感で期待が高まる。

715分前に大野が石田というベースを同行してやってきた。ゼンさんは倉庫からアンプを出していた。

「もうだいぶ使っていないけど、これ良い物なんだ、使ってよ」と石田に渡した。

大野がこっそりとゼンさんに「9時にもう一人、山田という若いのが来る、石田は今夜スタジオがあるので9時には出るから丁度入替えでかち合わない」と言った。

「OK,オーディションと言わなくても、何となく比べられるって分かるのは嫌だものね」

金曜ということもあって、7時半になると、常連で満席に近くなってきた。

「マスター今日はトリオで盛り上げるんでしょうと、もう情報を知っている連中だ」

「そう、今日はホンチャンのトリオだからね、凄いと思うよ」とゼンさんは明るく返していた。

演奏前に、曲目の打合せがあった。ピアノの赤木君がキーとテンポを気にしていた。

大野が「あまりややこしくなく、今日はぶっつけ本番だから、あたり前にやろう」と気をほぐしていた。

ゼンさんからの要求は特に無かったが、ただ一つ、「ブルースを一曲いれておいてね」が唯一の希望だった。

大野が「勿論」

ベースの石田に選曲の主導権を与えつつ、大野がコントロールしている。

「じゃあ、最初がバイバイ・ブラックバード、、次がサテンドールで、シュガー、スローでマイファニーバレンタイン、最後がバット・ノット・フォーミー、これでゆこう」

ミディアムファーストの「バイバイ・ブラック・バード」は軽快にスイングしている、何時になく赤木のノリがいい。

ベースは流石が音の伸びも安定感もある、前宣伝はバークレイ帰りで基礎がしっかりしている、実績ありというものだった。

コード進行に伴う、音の展開が円滑でピアノのソロフレーズの先を読みながら先ずぶつかることがない、ランニグベースだけを聴いていても、見事にコーラスの最終小節で解決して、まるでソロを聴いているような見事さだ。流石にバークリーで鍛えられているなとゼンさんは感じた。

普通は最初の曲から、ベースのソロはないのだが、今日は大野がベースにソロを取るように合図した。

入り方が落ち着いている、音をチラシながら、フレーズを纏めてゆく、まるで台本に書かれたようだ。

音程、申し分無し、音の伸びが気持ち良いと感じるが、ゼンさんはこの伸びが叉逆に何か気になる。

「何故だろう・・でも上手い、ある意味、コントロールされた予定調和が良いのかもしれない・・・?」

「シュガー」でもバッキングは申し分ない、ソロは・・ゼンさんから見ると、チョット、ブルース・フィーリングが弱い気がする、「でも今風のブルースってあまり泥臭くないのかな」とチョット物足りなさが残った。

本領を発揮したのは、「バット・ノット・フォーミー」を凄い早いテンポで始めた時だ。

これでベースが着いてゆけるのかと思うくらい早い。

しかし、速さは物ともしない、目を閉じて、最低音から最高音まで使い切る展開をする。

特に、高音域から低音へ下げてくる感覚が鋭い、小気味良い半音階下降進行を使う。

ピアノがそれを聴いて、触発され益々ノッテくる。いや若いピアノの赤木君があおられている。

それが顕著に出始めた、ベースがピアノに対して、次はこうもって行けとばかり、キーノートを意識して出している。

ピアノがそれを聴いてしまうので、自分のフレーズに持ち込めないで、モタつく。

ドラムがすかさず、左手のフィルインを増やして煽り立て、ブランクを埋めるが、ピアノはメロデックなフレーズにならないので、ブロックコードで打楽器的なフレーズを多用するようになった。

何とかテーマに戻し、最初のステージが終了した。

店の隅のテーブルに来た赤木君が汗だくで、「あーまいった」と小さな声でつぶやいた。

大野が「笑いながら、速かったね」と言いながら、お絞りで汗を拭いている。

石田は何もなかったように、タバコに火をつけた。

「あのアンプいいですね、欲しいくらい」とゼンさんにボツと言った。

ゼンさんは内心、何かローン・カーターみたいな・・・音質かなと、確信はないが、首をかしげた、何か心に埋まらないところがある、それが何だか、困っているのだ。でも上手い。

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因みにゼンさんの好みは、レイ・ブラウン、リロイ・ビネガー、サム・ジョーンズ、チェンバース、そして全く違う観点でラファロ、でもラファロはエバンスとのインタープレイが妙味だ。ビル・クロウなんて言うのもいいね。

9時10分前に山田君が来た。石田君は自分の演奏が終わり、一休みすると、早々に「ではスタジオがあるので」と言ってと飛び出して行ってしまった。

山田君がベースを持って階段を降りてきた。「ベースアンプはそこにあるから、使って」

「はい、ありがとうございます」

26歳という割にはスレていないし、まだ何か書生っぽいところを残している。

店内は充実した演奏のあとで、緊張感から解かれた雰囲気が漂い、BGMにはハンク・モブレイ「ワークアウト」が流れている。大野が改めて山田にゼンさんを紹介した。「宜しくお願いします」、山田君が大野に「次は何時からですか?」と聞いている。「9時半からやろうか」と大野がピアノの赤木に聞いた。

「そうですね、雰囲気が盛りあがっているから、冷めないうちに」と赤木君が応えた。

大野が「じゃあ次の曲順決めて」と山田と赤木に言った。

赤木と山田が奥のテーブルで紙を出して曲順を決めている。

「グリーン・ドルフィン・ストリート」「プリーチャー」「オール・ブルース」「キャラバン」「フォー・オール・ウイー・ノウ」「ソング・フォー・マイ・ファーザー」、この曲順を二人で決めて、大野とゼンさんのところに持ってきた。

「へえ、シルバーが二曲も入っている」とゼンさんが反応した。大野はむしろ曲の仕掛けが無いかを気にしている。

大野が各テーマを簡単に口ずさんで、確認している。「キャラバン」は本来ドラムソロ向きだが、敢えて大野がベースがソロをとるように指示した。何か意図がありそうだ。

2曲目までは、特にこれといったことは無かった、むしろ地味で目立たない、無難なベースという感じであった。

「オール・ブルース」になってベースの音質が変わった、というか、ゼンさんの耳にはそう聴こえた。

音が太い、音程は石田よりは悪いというか、鮮明さがない、でもこの音の太さはどこからくるのだろう。

ベースがソロをとった、ハイハットの刻みだけをバックにベースが呟くようなブルースのソロを展開している。

ソロに入っても音の太さは変わらない、音域に左右されずに太い。

ピアノの赤木が気がついたようだ、ベースの音を追っている。

ソロは4コーラスの終わり4小節でインテンポに入り、ミディアム・スローのリズムに小気味よくのった、ピアノとドラムが3連をたたいて、頭にはいった。

曲が次の「キャラバン」に移った。テンポはアップテンポだ。ベースが4小節の良く使うイントロを作った。

ピアノの赤木君が思い切った低音域からテーマを引き出した。

「おう、エリントン!」とゼンさんはオドケテ言った。そう、「マネージャングル」でのエリントンがこんな感じだ。

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ドラムはアフロリズムでサビが4ビートだ。

ピアノは3コーラスでソロを終え、ベースにソロを予定通り渡した。

ピアノとドラムは完全に演奏から離脱し、ベースに一切を任せた。

それを感じ取った山田は、覚悟を決めたように、大きく一息入れると、そのままのテンポを崩さずにソロフレーズに入った。ソロフレーズがメロディックだ。この曲独特のエギゾティックな曲想を上手く展開し発展させてゆく。

大野がキャラバンでソロを取らせたことは正解だった。

ゼンさんが曲がスローになった時、気がついた、「そうだ、駒の高さだよ」マネージャーのヤマが「そうか!」と納得した。

駒が高い、その分弾く時には大変なはずだ。ポジションを押さえる力だって半端ではない。

それを必死で、高い駒で頑張っている、その分確かに音の伸びや安定性に欠ける。石田の方が安心して聴ける。

11時前に演奏が終了した。

三人は奥のテーブルで二三の常連と話をしている。

金曜の夜、11時はまだ宵の口、お客は満席のまま、充実したトリオの音に満足している。

大野がカウンターで水を一口飲んだゼンさんに近づいてきて言った、「どう、どうしようか?」

「大野ちゃんはどう思う?」ゼンが聞いた。大野はちょっと迷って、「石田なら安全何だけど、山田かな・・」と言う。

「何故、山田君なの?」とゼンさん。「うん、音質が我々の音と合っていると思うんだ」大野が答えた。

「ゼンさんは、」「同じ、山田がいい、あれでいい、いい音だ、まだ粗いし、音程もまだ、でもジャズの音だよ、ビート感覚もいいし」

大野が赤木君を呼んだ「ちょっと、赤木君」

「赤木君はどう思う」と大野が聞いた。「正直言って、山田君がやりいい、弾きやすい、これはピアノからの吾がままですけど」と遠慮がちに言った。

「じゃあ、大野ちゃん、お願い、これでゆこう、決まりだ、チェンバースやヴィネガーみたになってくれるといいね」とゼンさんが締めた。

「みんな、12時から、ハウストリオ誕生のスペシャル・ライブを始めるよ」とゼンさんがお客に声をかけた。

店の中から拍手がおきた。「ケリー・トリオの誕生だ」「いや、スリー・サウンズだ」と口々に楽しそうだ。

ピアノカウンターの隅には大手企業の老社長、富田氏がパイプを燻らせながら、満足げに手でゼンさんを呼び「いいね、楽しみだね」と普段言わないことを、わざわざ言い出した。

ゼンさんの頭の中にも、ウイントン・ケリーやジーン・ハリスがよぎった。

12時からのステージは長く熱くなりそうだ!

ゼンさんは「ハウストリオの誕生か、俺の誕生日でもあるんだけどな」と一人ごちた。

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(今回の写真は珍しくも、ウイントン・ケリー、チェンバース、ジミー・コブの三人が新宿厚生年金ホールで写っているものです。64年にジャズフェスの時のもの、マイルスが同じ時に来たけど、すでにマイルスはハンコック、カター、トニーというリズムセクションを構成していた。写真はビクター音楽産業提供)

<次回に続く>

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コメント

ベースはジャズの基本、最もジャズらしい楽器というか、奏法とでも言いましょうか・・・。
きっと皆さんのベースの好みも色々でしょうね。

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