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2010年6月 4日 (金)

エピソード6「新人ピアニストの登場」の巻

時間どおりに大野はやってきた。

小柄な見かけは25歳くらいの男と一緒に。

ゼンさんはまだ演奏中だった。

例の仲間がきてピアノトリオの編成でやっていたときだ。

大野が店に入ってくると、演奏中のベースの森もドラムの川島も軽く会釈した。

日曜のお客は気持ちがフリーな感じがする。仕事帰りでないせいだろう、カジュアルな服装だし、その分気持ちもリラックスしている。

最後の曲は「ANOTHER STAR」(スティビー・ワンダー)だった。

終わりのテーマのメロを3オクターブのユニゾンで単純に弾いた、気持ちの良いグルーヴな響きだった。

演奏が終わってテーブルにいる大野の席にいった。

「珍しい曲やっているじゃない」大野が問い掛けた。

「そう、スティビー・ワンダー、面白いでしょう、そういうトシちゃんだってやっているじゃない、「ISN’T SHE LOVLY」を。

「このANOTHER STARってだれかやっている?」

「ジーン・ハリスが確かBLACK AND BLUEというアルバムで」

<Black & Blue/Jene Haris>

Gharris_blackblue_3

「それで、こちらが赤木 雄大(タケヒロ)君」と大野が言うと同時に挨拶が返ってきた。

「宜しくお願いします、赤木です」

背丈はあまり大きいほうではないが名前は大きい。

顔や雰囲気からするとジャズという感じではない、いや音楽を生業としている雰囲気ではない、まだ学生というか書生っぽい感じをしていた。

これからどうなるのだろうか・・・・と思いつつ「じゃあ、次の回でやる?」

「ハイ、お願いします!」返事はやたらいい。

「トシちゃんも久しぶりにお願い」ゼンさんは促した。

ジャズミュージシャンは気が乗ればやりたいのはやまやまだ。

「いいよ」

「エッ、俺一人、プロの間に挟まってアマは?」森がぼやいた。

「まあ、いいじゃないつきあってよね」と大野がたたみかけた。

20分ばかりして、「じゃあやろうか」と声をかけたのは大野だった。

「何からやる」

「ではコーナーポケットから」と赤木君が応えた。

ミディアムテムポのブルース調から無難に始めた。

ゼンさんはあまりこの曲が好きではなかった、この単調なメロディは何を言いたいのか、ダルな雰囲気ばかりが出てしまうので自分では弾いたことが無かった。

赤木は大野のドラムが一緒というのは今日が初めてではないらしい、既に幾度か一緒にやったことがあるという話だった。

ベテランの大野はさすがで、いかにこのピアノを引き立てるか、オカズのフィルインの勘所がプロだ。

決して派手なタイコではないが、この何気ない左手のアクセントでピアノも聴衆も引きずり込まれる。

ベースの森もラインに忠実であまり悪戯をしないでピアノをよく聴こうとしているし、シンバルレガートの後ろ一杯になるよう、アフタービートを引っ張っている。

4バースに続いてエンディングで無事に終えた。

間を開けずに、F7の連打が始った、シンバルが8ビートをあわせる、森がピアノのキーを見ている、

曲目は告げずに始った、「WATERMELON MAN」(ハービー・ハンコック)だ。

店内の雰囲気がガラリを明るくなり、皆の身体が揺れだした。

「やるじゃないか」ゼンさんは内心嬉しくなってきた。

フレーズが粘っている、三連符も遅れ気味でいい、右手のトレモロもいい、左手のビハインド・ザ・ビートもまあまあだ。

ドラムがいいとスイングするし、アドリブが楽になる。

ゼンさんはこの経験を二度ほど実感している。・・・・

でも二度で十分だ・・・???何故はこれから始まるゼンさんの回顧録で・・・。

回顧録:「白木秀雄のComing home baby」

     <ゼンさん1967年12月大学二年の回想パート>

Photo     

私が学生時代、アルトとペットの2管のクインテットで他の大学のパーティーのアルバイトをした。

もう一つのゲストバンドは当時の日本のトップジャズバンドだった。

リーダーは今は亡きドラムの白木秀雄、ベースは稲葉国光、ピアノ菅野邦彦、テナー村岡健、ペットがなんと日野てる正、「白木秀雄クインテット」

今聞けば夢のオールスターだ。でも当時はジャズでは食えない、有名バンドでも大学のダンスパーティーの営業をしていた。

場所はボーリング場の別フロアーで奥が舞台、あとはだだっ広いフロアーで500人くらいは入れた。

6時半に音出し、9時終了、最後のトリは白木秀雄クインテットに取ってもらわねば失礼だ、開始前に舞台裏の楽屋へお願いに行った。特にマネジャーは居なくて白木氏自身が「ああいいよ、OK」で万事終了。

最初のステージを予定通りこちらでこなした、ダンスパーティーのバンド交替の繋ぎの曲は3拍子と決まっている。

我々はビートルズの「ノーウエアジン・ウッド」を使っていた。

1コーラス終わったところでプロのメンバーが出てきた。真っ先にピアノの菅野邦彦さんが出てきて僕の横でチョットキーを見て交代した。

「洒落た曲つかうじゃない」と言って引き続けた、ベースが交代し、ドラムが交代してリズムセクションの交代が終わると曲の途中からでも強引にエンディングへもっていって終わらせてしまう。

最初の曲が始る、我々は楽屋に帰らず、舞台の袖からフロアーに降りてそのまま聴く体勢にはいった。

白木さんはメリハリの効いた強いビートでアフロリズムをたたき出す、8小節叩いたところで管が前に出てテーマを吹く、・・・「LOVE FOR SALE」だ。

スピード感がたまらない、リズムセクションがガッチと構えて2管がアフタービートいっぱいで4度のハモでのってくる、スイング感が凄い。

会場は聴いているのが三分の一、踊っているのが三分の一、あとは後ろでたむろっている。

これは聴いている方がいい、だんだんご機嫌になってきた。

彼らの出番が終了する10分前に楽屋へ戻って次に予定した曲の順番を確認した。

バンド交代に菅野邦彦さんは「MOON RIVER」を弾いていた。

でも変なキーみたいだ、私はドッキとした。あまり長く繋ぎをさせては失礼だから直ぐにピアノの横に行った。

キーを見た、エエエッ、ピアノだけで弾いているのにD♭?

「それD♭ですか?」一応確認したとたんに、E♭にしてくれて交代した。

曲の間を空けてはパーティーはしらける。

予定通り最初の曲「COMING HOME BABY」にとりかかろうとした。

私がカウントを出す、・・・・はずなのに、ドラムがカウント出しのステックを叩いた、それもやたら早い、違うだろうと振り返って驚いた、ドラムセットに居るのは川島ではなく、白木秀雄氏ではないか。

ニコニコしながら早く入れと目で合図がくる。

でもこんなに早い「COMING HOME BABY」はやったことが無いしペットの深谷では無理だ、咄嗟に「アルトだけ」と声をかけた。

ダンパーだからできることで、コンサートではないので助かった。

ジャズ好きな連中は結構楽しんでいるようだ。

案の定アルトの恩田は頑張った、結構ノッテいる。

床屋の倅でギターを弾かせても上手いアルトを吹いても上手い、楽譜に強く初見がきく、アドリブも外さない我々グループのコンマスだ。(コンサートマスター:音楽的技術監督)

自分でも何だか気持ちが落ち着いてくると妙に何時もと違うノリを感じ気分が良くなってくる。

無理をしないでも自然にメロをフェイクし、自然にフレーズが出てくる不思議だ。

バスドラ(バスドラム)が単調な刻みではなく縦横無尽に歌う様に入ってくる。

なんとノリ易いリズムか。

ドラムの川島はカウベルを叩きながら白木さんのドラミングに目が釘付けになっている。

この曲はピアノが3コーラスソロを取ってエンディングという予定が白木秀雄氏はエンディングではなくドラムソロへ持ってゆこうとしている。ピアノのコーラスの切れ目からシンバルレガートを外すと8ビートとラテンのリズムを周囲に刻ませたまま、ソロを展開している。会場の雰囲気は異様に盛り上がっている。

大分長いソロが続いた、いつ終わるのだろうかと・・・・思っていたところへペットの日野さんがハイノートでテーマを吹きながら入ってきた。

ドラムソロはそこで急遽ペットのバックへ廻りリズムを刻みだした。

器用でもあり何でも直ぐに出きる人たちだなと思いながら、コードB♭とFの繰り返しをベースと一緒に弾き出した。

ペットは1コーラスソロを吹いて目で恩田に入れと合図してアルトとテーマをつくり無事終わることができた。

白木さんと日野さんは笑いながら舞台から裏へ引き上げていった。

世界的ドラマー白木秀雄のバックでソロを弾く、その時の不思議な且つ自然なノリの感覚は未だに忘れられない。若いプロドラマーは私に聞くことがある、「どうでしたか?どんな風でしたか、聞かせてください」

因みに白木秀雄クインテットのギャラはC十万円(ツェージュー万)で我々はD万G千円(デーマンゲーセン)、これは良いギャラだった。

このステージが終わるころ我々のガールフレンドがやって来た。

白木秀雄クインテットで踊れるなと思った。

>>>この1967年から数年後、白木氏は他界した<<<

この感覚を次は1984年に味わうことになるが、それは叉の機会の回顧録だ。

<ピアノ赤木君の演奏場面に戻る>

赤木君は弾きまくるタイプだった。

音数が多いなとゼンさんは感じた、でも若さゆえか・・・。

スイングさせようという努力が見えたり聴けたりしてしまう。

でも悪くは無い、やはりトリオでやるのはいいな。

ウオーター・メロンマンが佳境に入ってきた、フレーズからブロックコードでの展開に、ゼンさんは心の中で叫んでいた、「そう、もっとそのフレーズを伸ばせ、ベースラインが低音へ降りてきている逆に高音部へ持ってゆけ、アッ、ベースラインに同調するな、ドラムとのシンコペーションを考えろ、そうだその調子、せっかくノッテいるんだ、フレーズを切るなよ、これからクレッシェンドだぞ、もっと、もっと、そうだ最高の音量にしてそして一気にピアニッシモだ、聴衆にアットと思わせろ、音が聞こえなくなるくらい小さくていいぞ・・・・でもフレーズは洒落た奴を持ってこいよ、繰り返しでいいからな・・・・」

ゼンさんはいつも聴くときは心の中でこう叫びながら聴いている、そしてこれがピッタリ一致した時の爽快さはたまらない。でもとても疲れる。

奏者が終了後に「ああ、疲れた」と言うと、ゼンさんは「俺はもっと疲れた」という、トリオでも三人分を一人でやるのだから。

内心はもう決めていた、いや、赤木君を使うだけではなく、ハウス・トリオをつくることをだ。

その為にはベースがいるな、誰にしようか、ゼンさんの頭は既に飛んでいた。

森は素人だ、仕事もあるし限界がある。

大野のトシちゃんと一緒に考えよう。

その日は日曜で明日から仕事というのに12時を過ぎても客は帰らない、見渡せば今日は自由業が多いやと思った。休憩時間にやたら盛り上がっている。

トシちゃんに話した、「やろうや」

「結構いいでしょう」

「でも条件ありだ」

「何よもったいつけて、また・・・」

「もったいではなくて、トリオでやりたい、トシちゃんを入れて、どう?」

「ウーン、基本的にはOKだけど、来月からね、今月は自分のアルバムの録音があるし、ライブハウスがもう決まっているから」

「勿論、そんなに急がない、だってベースだって探さなきゃ」

ゼンさん誰か良いのしらない?」

「急だからね、来月一杯かけてオーディションをやろうか」

「そう心当たりを三人くらい探して誰がいいか、ここで演奏しながら聴いてみるのもいいね」

「大野トリオでやろう!決まり!」

ゼンさんは久々に気持ちが良かったし、大野もまんざらではなさそうだ。

ミュージシャンにとって固定収入はありがたいし、活動の拠点ができると言うのは嬉しいことだ。

「それであの赤木を育ててゆこう」ゼンさんは奥のテーブルでベースの森やドラムの川島と飲みながら話している赤木を見ながら大野に言った。

「今、どこのライブハウスも日替わりバンドみたいで何時も良い出し物ならいいけど、俺は『スリー・サウンズ』みたいなグループの個性的な音をもったピアノトリオをハウストリオとして組みたいんだ」ゼンさんは一気に大野に話した。

大野が応えるように言った、「いいね、ブルーノート時代のスリーサウンズ、ジーン・ハリスね、やりたいね」

「やろうよ」

「今度のトシちゃんのアルバムの録音、立会いに行ってもいい?」

「いいよ、来週の金曜日、15時から用賀のRスタジオでだけど」

419qpbd6adl_ss500_(BGMは「ビル・エヴァンス/アローン」)

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