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2010年6月11日 (金)

エピソード9:「アフターアワーズ」の巻

仕事が終わったミュージシャンが12時過ぎから集まりはじめ、これを知っての常連が居残って盛り上がっていた。

赤木君のピアノに大野のドラム、未だ決まっていないベースに今日はトラ(エキストラの略で臨時の意味)で気心しれた坂井君が入った。

0時から始り、1時くらいにアルトの松本氏が入ってきた、「みんなやってる!」もう70歳を過ぎているが元気でジャズの生き字引みたいな人だ。

店に入るなりヤマちゃんから水割りをもらい一口飲むとケースからアルトを取り出した。

赤木君が曲の繋ぎ目で何が始るか待っている。

松本がやたら早いカウントを出した。

”MILESTONE”が凄いテンポで始った、やたら気持ち良いくらいスムースにテーマを吹いてゆく、アドリブに入ったところで、松本の最初のフレーズがなんと、「KIND OF BLUE」のCANNONBALLと同じフレーズだ。

この4小節は皆にわかった、今日のお客は言わばベテランの客だ。

そのフレーズに続いて「オーゥ、イェ」という歓声があがる。

ピアノを囲むテーブルの端に陣取った常連、75歳の大実業家である太田氏も満足げにパイプをふかしている。

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何時もはスーツ姿で仕事帰りに寄る一部上場の社長だが、今日は洒落たツイードのジャケットでリラックスしている。

松本のソロは益々熱くなってくる、フレーズが切れずにノリノリのアドリブが気持ちよく続く、バックもそれに乗じてプッシュしているし、大野のタイコはご機嫌だ、そして今夜の坂井のベースは凄い、このテンポで4ビートが思いっきり走っている。

なんと言うスイング感、それに触発されたように赤木のピアノがノリ始めた、ホリゾンタル・フレーズの展開からブロック・コードの展開へと音の厚みを徐々に加えてゆく。彼もまたフレーズが途切れずに長いソロフレーズでスイングしている。

「そうだ、そのままいけ、切るなよ、ベースのランニングの上へ乗せてゆけ、そうもっと高音域までフレーズをつなげろ!、ドラム、そのコーラスの頭をリムでバッシと決めろ、そうだ、いいぞ、ベースはそのサビのAmのポイントだけはオリジナルな展開音にしろ、「そうそう」とゼンさんはソロ奏者全員の気持ちになって聴き入っていた。

ベースのソロが終わり、4バースに入った所で、階段を降りてくる客がいた、いや客ではなく、ペットの高井茂だ。

彼は来るなり、ゼンさんに手で合図をおくり挨拶し、直ぐに楽器ケースを開いた。

スライドを少し調節して音を合わせた。

何と4バースの終わりから再度トランペットが参入だ。

松本が入れと目で合図すると高井はいきなりハイノートでソロに突入してきた。

スピード感は最初の出だしと変わらずに飛ばしている。

結局、この”Milestones”は35分続くこととなった。

お客は皆、熱くなり始めている。

こうなるとニ管編成のクインテットだ。

年長者の松本が口火を切った、「はい、次は!」

高井が「何をやりましょうか」とチョット思案して「SPEED BALL」とLEE MOGANの有名な曲を告げた。

ブルース仕立てのやり易い曲を選んだ。

テンポがミディアムになって、聴く方もホットした雰囲気が漂った。

みんな、一服したり、思い出した様にグラスに手をやっている。

そんなタイミングで次なるゲストが現れた、階段から降り立った一人のグレーヘアーの外人にみんなの目がいった。

一瞬誰だろうと思ったが、ゼンさんがニコヤカに近づいて握手した。

「So long、Whats going here!」

外人が笑いながら

Ill join to this session.」

ゼンさんが、「Ofcourse! ride again DAVID!」と。

みんながこれで理解した、年末から新年にかけてのコンサートで来日中のピアニスト DAVID SANDERSだ。

11月に新譜を吹き込みかなり話題になった。これを引っさげてのプロモーションで来日中だ。

1年半前にもコンサートの合間などに顔を出したことがあった。その時ゼンさんと懇意になり叉来るという約束を果たしにきたのだ。

ほぼ満席の客席の中で一人座る隙間をみつけて取りあえず彼は落ち着いた。

隣は太田さんだ、握手をしている。

ピアノの赤木君の目が落ち着かない、変わるのかなとでも思ったのか、でも彼は座ってしまった。

SPEED BALL」が終わると、ゼンさんが立って、DAVIDを紹介した。

彼は軽く会釈するとピアノに向かい赤木君と握手をして交代した。

ベースの坂井、ドラムの大野とも握手をしている。

ベースの坂井に何か耳打ちをした。

ピアノに向かうと3秒ばかり目を閉じた。

やおらミディアムスローで引き出したのは、「I'm in the mood for love」で、ベースを先にやりながら、ボツボツとメロを追っている。

お客が静まり返った。

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ソロに入ってもシングルトーンでの展開を続け、4コーラス目からはドラムもブラッシュからスティックに持ち替えた。

シングルトーンから音を積み重ねつつコードワークへと展開し、ボリュームを上げてゆき、頂点に達したところからテンポを倍にしたあたりは、常道とは言え、見事だった。

同じピアノでありながら、音が違う、この厄介なスタンウエイ・コンサートグランドをねじ伏せている。

体格は大して大柄ではない、アメリカ人にしてはスレンダーなほうだ。

でも指力と腕っぷしが違うようだ。

完全にノーペダルで音を膨らませている。指がシッカリ押さえている証拠だ。

どんなに早いパッセージでもごまかさずにキーの上を指が吸い付いてゆく。

手は広げれば優に12度は届くだろう。「羨ましい手だな」とゼンさんは手を追った。

倍テンにしてもユッタリとしたスイング感は崩さない、大きな揺れだ、店全体が揺れているようだ。

ベースもドラムも目を閉じている。

エンディングに入って音量がまた一段と上がった、まだ叩く力を余していたのだ。

音に身体が包まれていく、その音と一緒に身体がスイングしている。

自由自在に転調を重ねてゆく、気持ちよいスケールの展開だ。

コードを最後に逆順にして静かなエンディングを創った。

「おみごと」ゼンさんもそして皆もそう思ったに違いない。

アルトの松本もペットの高井も音の世界に入っていた。

「Well、next!」で松本も高井も目が覚めた。

高井が「もっとやっていていいのに」と冗談を言いながら楽器を手にした。

松本がジャムにしやすいと考えたのだろう、「Three little words」といい、ミディアムファーストのテンポを出した。

テーマのメロをアルトが取り、ペットがオフリガートで絡む等という芸当が即座にできる連中である。

いや、DAVIDはそれに輪をかけて、ピアノで絡んだ。

アルトのメロをペットが追い、それを叉ピアノが追うという三連だ。

テーマが終わったところで、ドラムがバチンとブレイクし、そのブレイキングポイントを活かして俺がやると、強引にソロを取ったのは、生きのいい若手ペットの高井だった。

2小節のブレイクの間を早い三連符で駆け抜け、ソロへ突入した。

いい演奏が続くことは、疲れることでもあるなと・・・ゼンさんは心地よい疲労感を感じていた。

今日のお客は気を使う客ではないと言えば語弊があるが、アフターアワーズのジャムだから皆なお互い様で乗っている。

ヨーコもヤマちゃんも、赤木は結構真剣にDAVIDを聴いているようだ。

また一人の大柄な黒人が降りてきた、その黒人は背中に大きな筒を背負っている。

JOHN GRACYだ。そうテナーとソプラノを吹くが今DAVID達と一緒に来ている。

彼が、ソプラノを背負ってやってきたのだ。

JOHNはもうソプラノを筒から引き出している。

JAZZMENはみんな演るのが好きなんだ。

ギャラなんて関係無い、こうして楽器をもって集まり、一緒に演奏することが楽しくしょうがないという顔をしている。

これはアメリカ人も日本人も世界中どこへ行っても、何人だって同じだ。

JAZZとはそういうもの。

ペットが終わり、松本のアルトソロが終わると、咄嗟にJOHNのソプラノが入った。

ピアノに向かっていたDAVIDが気が付いたのは、JOHNがソプラノの音を出してからだ。

顔を上げて急に笑いだした。

JOHNのソロはウオームアップ気味に出て行ったが、3コーラスも進むと凄みを帯びてきた。

ソプラノ独特のハイトーンを小気味よく伸ばして、耳さわりの良いリフを繰り返してくる。

この繰り返しのフレーズって結構、人の心理を興奮させ、高揚させる効果をもっている。

DAVIDにソロを渡し、ついに最後はドラムにソロを渡した。

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大野はさあ、どう料理をするかという仕草でソロに入った。

演奏者も椅子に座って聴いている。

大野はそこで大見得のソロを構成しなかった。

大たたきをせずに、言わば、ピアニッシモのドラムソロフレーズから始った。

聴き手はさぞかし、ドハデなソロをと考えていたのが違ったので、返って何が始るのだろうと、聞き耳を立てている。

スネアから中タム、バスタムとロールを廻しても音を大きくしない、ロールをシンバルにも持ってゆく。三連も後打ち三連、中打ち三連、中抜き三連と変化をつけながら、見事な音楽的打楽器ソロを展開している。

何れ、最後には例によりドタンバタンのドラム独特のソロの締めになると期待していた人は皆な裏切られた。

大野はスネアのロールを小さな音で引き伸ばしながら、再度、アップテンポのシンバルレガートを再開した。

その瞬間、拍手が巻き起こった。正に自然発生以外の何者でもない。

その後間もない時にDAVIDが突然ゼンさんを指差し、ゼンさんにも弾けと出だした。

ゼンさんが遠慮していると、「ゼンさん、ゼンさん」とゼンさんコールが起きた。

こんな時何を弾けばいいのか・・・・・?

久々のアフターアワーズのジャムセッションだ、楽しくやろうと・・・・。

またまたゼンさんはアップテンポを選んだ「Take the A trane

例のおなじみの前奏とも言うべきフレーズを弾くと、「イエー」と掛け声がかかった。

なんと、テーマは三管編成だ、「でも急にみんな良くヤルよ」と、譜面も無いのに、ちゃんとアルト、ソプラノ、ペットでハーモナイズされている。

テーマから客席がノッテいる、選曲には間違いなかった、ゼンさんはこれで半分は成功だと思った。

管が三人でソロを終え、ピアノに廻ってきた時には15分経っていた。

ゼンさんは3コーラスのソロをして、赤木君に合図し、タッグマッチ宜しく交代した。

赤木は変化を出すために、ストライド奏法を見せた。3コーラスが終わるとDAVIDへタッチした。

DAVIDは叉違う奏法を見せたかったのだろう、なんと、左手で曲技まがいのブギウギを弾きながら、ソロを始めた。

プロの左手はかくあるべしという見本のような奏法だ。

序序に夜もふけてゆく。

午前3時近い。

JOHNがソプラノで「ROUND MIDNIGHT」を伴奏なしで吹きはじめた。

テーマだけだったが、夜が明け行く感情が現れていた。

そうして、「KIND OF BLUE」の夜はふけていった。

5時になると、さすがに誰もいなくなった。

何時ものスタッフだけが、母屋のリビングにあつまり、日の出を待った。

朝は静かに穏やかに、大きな太陽と伴に光輝きながら明けていった。

(このジャムの様子は妄想と創造です、でも1984年8月東京のとあるジャズクラブでこれと同じような現象とジャムセッションがありました。偶然ですがその場に居合わせました。居たのは、グローバーワシントンJr、グラディテイト、ジョージムラーツ、それに山本剛、守新二、・・・・・等など。みんな遊びに来て大ジャムセッションで朝3時まで続きました。)

<次回に続く>

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