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2010年7月16日 (金)

エピソード20:「ついにスペシャル・三管編成で「これがJAZZだ」リハと日野元彦の思い出」の巻

<前回より続く>

大野が曲を決めてねと、ゼンさんはオープニングはもう決めてあった。「出だしのテーマは、ムーンリバーだ」と言ってニヤっと微笑んだ。大野も理解した。「例のやつね」。 「そう、ブハイナズ・ディライトよ」これで全てが分かる。

「でも、テーマだけでいいよ、出だしは、そう、後はコンマス(コンサートマスター)を頼むテナーの山口君と大野ちゃんに任せる。でもいれておいて欲しいのは「スリー・ブラインド・マイス」、「ワークソング」、「ナイト イン チュニジア」、それからスローで「ラウンド・ミッドナイト」だな・・」「スタンダードも少し考えよう、三管に合うようなアレンジがいるから山口君に頼んでおこう」

初めてのことでもあり、取りあえず「ONE NIGHT STAND」にした。90分の2ステージ、曲は20曲を用意する事にし、リハは2日間で昼間の5時間とした。

予約は取らない、来た人は早いもの順にできれば全員入れたい。何時までいてもいい。入替制なんてヤボなことはしない。その代わり階段に腰掛けてもOKだ。

リハは順調に進んだ、テナー山口、アルト大岡、ペット岡田、そしてレギュラートリオがリズムセクションだ。

リハが進むと、「マーシー、マーシー、マーシー」が始まった。色合えとして8ビートも新鮮だ。

<トコちゃん(日野元彦)との思い出>

ゼンさんは、店の隅から眺めていた、フト階段の方を見ると幻影が映った。今は亡き、世界的ドラマー、トコちゃんこと、日野元彦氏だ。影はもうない、でも確かにゼンさんの網膜にはトコちゃんが映った・・・・・・。

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1985年の暮れ、ゼンさんは毎夜六本木のジャズクラブに出入りしていた、仕事を終えると毎夜向かった。

その日はもう他のクラブで聴き終えて、帰りがけに、クラブAに寄った、もう深夜2時くらいで、お客はいない、オーナーのママとバーテンのYが後片付けをしていた。「あれ、ゼンさん、なにこんなに晩く・・」「前を通ったので上がってきた、お茶を一杯お願いできる」お酒を飲まないゼンさんは車をこのクラブの隣の駐車場に停めていた。

オーナーのママがドラムをイタヅラして”ドシャーン”と叩いた。

そこで、ゼンさんが誰もいないことを良い事に、ピアノの前に座りやおら弾きだした。ドラムが叩きやすい様にミディアムテンポのブルースを始めた。

3コーラスばかりイタヅラに弾いたところで、店のドアーが開き誰かが入ってきた。

スティックの箱を抱えてトコチャンが入ってきた。直ぐに演奏は中断した。

「なんで止めるの?」とトコちゃんが言った。ママとトコちゃんが交代した、ゼンさんは困った。「エッ・・・」

「なんでも良いよ、早くやろう!」。 ゼンさんはチョット間をおいて、8ビートテンポでA♭とD♭を繰り返しはじめた。

すかさず、世界的ドラマーはレガートをつけてきた。ゼンさんは開き直ってテーマを弾き始めた。

「マーシー・マーシー・マーシー」だ。

でも、何かいつもと違う、普通に弾いているのに、リズムがシマッテいる、ダラダラとした感じが無い。

サビでクレッシェンドになると音量がピッタと一致する、「なんと気持ちのよい」と背中に心地よい緊張を感じつつ曲を進めた。アドリブに入ると、一層盛り立ててくれる、単調になりそうになると、トコちゃんの左手が強烈にフィルインに入る、思わずブロックコードで対応する。頭の片隅で「ああ、会話をしている」と。

5コーラスも弾いただろうか、テーマに戻って、エンディングに入り、無事終えた。

とても気持ちの良いスイング感が身体に残っている。不思議だ、自然と弾けてしまった・・という感じだ。そしてこんなにスイングしたのは後にも先にも無い。

そんな光景を脳裏に映しだしていた。そのあとで、スティックの箱を開けるとトコちゃんは「これ出来たての、TOKO MODLE 」と云って、30本くらいあるなかから一組をゼンさんに渡した。

スティックには「TOKO」とロゴが入っていた。そのトコちゃんこと、日野元彦氏はもう居ない。

「ゼンさん、どうかな、音量とか?」と山口君が声を掛けた。

ゼンさんは正気に戻った。

ゼンさんは、本番で張り詰めた演奏を聴くのも好きだが、リハーサルを片隅から見るのも好きだ。

本番とは、また違う緊張感がたまらない。

コンマス(コンサートマスター)役のテナーの山口君が、駄目だしをする。「キャラバン」の出だしだ。ベースがイントロをつくる、ドラムが加わる、リズムセクションができたところで、テーマに入るが、出だしから音が大きすぎると言うのだ。「そう、ラクダの隊商が遠くから序々に近づいてくる様に、出だしは小さく、段段大きくだからね」

三管だとどうしても音が大きくなり勝ちだ。自分では小さいつもりでも、三本まとまると音が大きくなる、店の中も広くはないから、今回はPAは使わない。全部生音でゆくことにする。

この生音がとても心地よい。最近はともすれば、PAで作られた音を聴かされるケースが多いが、できればPAは必要最小限でよいとおもう。

「キャラバン」のテーマが徐々に仕上がってゆく、楽しみな展開だ、だんだんクレッシェンドで何か起こりそうな期待で膨らんでくる、これがテーマでは大事だ。それから後はソロイストの表現範囲だ。

「おっ」とゼンさんが一瞬息をのんだ。

ソロの2コーラス目からサビのコードの範囲でバックリフがあるのだ、山口君が創ったらしい。サビのメロは音階が下降するが、リフは上昇のメロを対位法的に展開させている。

「うーん、やるな」と思わず呟いた。

休憩に入った、テーブルで譜面を開いて確認をしている、ヤマちゃんが皆に飲み物を出している。

「これ、何んですか」とピアノの赤木君が聞いた。「クランベリーのジュース、マスター特製のね」とドラムの大野が言った。「きれいですね」ペットの岡田君がグラスを明かりにかざして見ている。

ゼンさんはこれでいいと思い、自宅玄関のある中庭を歩いていた。

そこに、ピアノの調律師の宮崎さんが現れた。

そうだ、ライブに先だって調律を頼んでいたのに気がついた。

「もう少しでリハが終わりますから」

「いいですよ、音だしを聴いていますから」

かれはスタンウエイー専門で名人と言われている。40少し過ぎたくらいで、若いと云えば若いが調律という仕事は脳外科医と同じで耳が若い方がいい、手の作業と耳のバランスが最高に取れるのがこのくらいの年齢かとも思うけど、それだけでは無い、彼は勘所がいいとピアニストからの評価が高い。

「もうあのピアノは宮崎さんじゃないと言うことをきかないね、大分よれてきたよ」

「でもね、NYスタンウエイが30年くらいでヘバるわけがない、まだまだピアノの寿命は長いからね」と宮崎さんは淡々と言った。

「あと100年はいけるよ、明日の三管ライブ楽しみだねと」と付け加えた。

そこに、バンドのメンバーが中庭に出てきた。

アルトの大岡君が美味しそうに一服つけた。

「じゃあ、宮崎さんお願いします」とゼンさんはたのんだ。

日差しは西に傾いて、中庭の大きな欅の木の葉の間から日差しが輝いていた。

夏の日差しは強烈だけど、今日は何か強さを感じさせない。

「みんな居間に来るか」とゼンさんが誘った。

トリオのレギュラーメンバー以外は皆初めてだった。

「気楽にやってねとソファーを勧めた」部屋は空調が快適に効いていた。

ゼンさんがオーデイオのスイッチを入れた。「ブルーボサ」が流れ始めた。

リハの緊張からほっとしたのか、みんなリラックスしていた。

アルトの大岡君が「マスター、もう一杯いいですか、あのジュース」

ゼンさんはニヤっとして、グラスを出した、「他には、飲む人は?」

「これは何ですか、この株式会社BIGというゼンさんの名刺」と岡田が聞いた。

「ああ、それは、会社の名前だ、「クラブ KIND OF BLUE」の経営もやるし、投資会社もやる会社だ、正式名称は「株式会社BLUE IN GREEN」で略して「BIG」というわけ」

「へえ、クラブの名前も会社の名前も何かシリーズみたいに統一されているね」と山口君が名刺の箱を見ながら言った。

5時半を廻ったころ、調律の宮崎さんが「終わりました」と声を掛けてきた。

レギュラー以外のメンバーは今日はみんな仕事が別のところであるからと出かけていった。

レギュラートリオの面々はゼンさんと軽く食事と居間でチョウさんの作った賄いのバラ寿司を食べていた。

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「ウーンこれは美味い」大野が思わず声を上げた。

ピアノの赤木君が「山口さんって黒人みたいな感性を持っていますね、ソロの入り方なんてゾクゾクするくらい押さえて入ってくるでしょう」と言う。

「彼は上手いね、ステディに入って徐々に盛り上げる、その押さえ方がいいんだよ」と大野が加わった。

「三管のアレンジを山口君に頼んで間違いは無かったね、あのハモの創りかたは黒いもの、最高だ」とゼンも加わった。

<次回へ続く>

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