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2010年8月10日 (火)

エピソード30:「スパニッシュ・モード」

<前回より続く>

今回は「アランフェス協奏曲」をテーマに・・・・最近、この曲を自分で弾くことに執着しています。もともとスパニシュモードはアドリブでの発展がしやすいので、高校時代から好きでした。特にコルトレーンの「OLE」を聴いたときから、このモードから抜け出せなくなりました。何処か日本人のマイナー好きとスパニッシュモードがシンクロナイズするのかもしれません。

この曲とスペインの旅の印象からチック・コリアの名曲「スペイン」は生まれましたが、楽想が湧いて曲になるまで6年を要したと言われています。

この「CONCIARTO DE ARANJUEZ」は盲目のギターリスト、JOAQUIN RODRIGOによりギターとオーケストラの協奏曲としてつくられました。

1937年です。

JAZZ界で最初に取り上げたのは、いわずと知れた、マイルスとギル・エバンスである。「スケッチ オブ スペイン」がそれである。ジャズのアランフェスはそこに始まる。

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ギルの複雑で精緻なアレンジの合間に切々と訴えるマイルスのペット、カスタネットではじまる1620秒の音のタペストリーである。

もう一つの傑作は、ジム・ホールとドン・セベスキーの作品、これはマイルス、ギルのオーケストラ仕立てからコンボ構成へと展開の土台を変えた。

ピアノ:ローランド・ハナ、ベース:ローン・カーター、ドラム:スティーブ・ガッド、アルト:ポール・デスモンド、トランペット:チェット・ベイカー、

ギター:ジム・ホール、このパーソネルだけみてもワクワクしてくる布陣である。

ギターによる導入部で暗示があり、ガッドが4ビートでもなく8ビートでもない、基本的には2拍子というアクセントを底流に流し、この上で各自がソロを展開する。

ガッドを私はジャズドラマーの範疇にはいれていない、フュージョンドラマーと認識している。

しかし、ここではガッドが当っている。

スパニッシュのリズムをエキサイティングに、でも抑えて、スリリングなリズムをたたき出している。

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この編曲はドン・セベスキーである。彼の企画と編曲が抜群でJAZZフォーマットのアランフェスとしては抜きん出ている。乾いた音のデスモンドとチェット、哀愁とはこれだといわんばかりの音色である。そこにハナの極上な熟した、粒だった音が抑制を効かしてのる・・・・・ハナのフレーズを聴きながら先日、独りでドライブをした、完全に音の中に入り込んでいた。

私はこの雰囲気を自分のソロピアノで出したくて日々イメージし練習をしている。

到底この域に到達はできるはずもないが・・・・気持ちだけは・・・。

因みにどれだけアランフェスのCDを持っているか自分のリストを繰り出してみた。

1、スケッチ オブ スペイン(マイルス+ギル)

2、マイルス カーネギホール

3、MJQ+ローリンド アルメイダ

4、スイングル シンガーズ

5、ジム・ホール

6、LA4

7、ジム・ホール+デビッド・マシューズ

8、テテ・モントリュー

9、マンハッタン ジャズ クインテット

10、ヨーロピアン ジャズ トリオ

11、藤原 清澄

12、MJQ VTR ドイツ ステッツガルドでのコンサートVTR

ざっとこれだけあった。

「アランフェス協奏曲」

さて場面をクラブ「KIND OF BLUE」に移そう。

その日の河田吾郎は何故かバラードを弾きたい気分だった。

自分の気持ちが内省化しているのだろうか。

最終ステージで、長い「OVER THE RAINBOW」を弾いた。

お客さんは8分の入り、雰囲気は落ち着いている。

河田の演奏への入り込み方が尋常ではないものを皆が感じていた。

しかし、ベースの山田もドラムの大野もその雰囲気を客観視するのではなく、自分たちも引き込まれ、一体と化していた。

ひと呼吸おいて、河田がベースに振り向いて一言交わした。

「アランフェス」

イントロはベースから入った、テーマを象徴的に暗示するスパニッシュスケールがベースから示された。

16小節をピッチカットでそして次の16小節をアルコで弾いた。

正にフラメンコ フレーズで構成されていた。

ドラムがシンバルワークだけで、場の雰囲気をつくった。

河田のピアノがシングルトーンでEとDを基調にスパニッシュスケールを提示した。

ドラムとベースが4分の6拍子をたたき出した、ユックリと大きくスイングするリズムだ。

その上にのって河田のソロが展開される。

通常、ジャズでアランフェスといえば、第二楽章アダージョのメロディを使う、このメロをこのリズムに乗せて、大きな展開を示してゆく、突然サビを即興的につくった、それはなんとチック・コリアの「スペイン」のサビをそのまま当てはめたものだった。

なんという即興的構成力だろうか・・ゼンさんはここで鳥肌がたつのを覚えた。

ピアノのソロは20分に及んだ、ベースがまたベースよりギターではないかと思わせるフラメンコ・ベースを弾いた、場内はスパニッシュ一色となった。

ドラムの大野もやはりスパニッシュモードでリムを使い、カスタネットのアクセントをつくる。

最後にベースがコードをまるでフラメンコギターのようにストロークで弾いたときには、「OLE!」と掛け声がかかった。

40分にも及ぶ演奏が終わったとき、誰もそんなに時間を要しているとは感じてなかった。

一瞬の静寂・・・・・・・そして長い拍手・・・・誰しもの心に染入ったインプロビゼーションだった。

スパニッシュ・モード・・・この無限に近いフレーズを紡ぎださせる民族音階・・・ここには未だ底知れぬ可能性を秘めているのではと・・。

演奏を終えたトリオの三人はしばし言葉が無かった、無言で水を一口飲んだ、大きく息をすった。

そこで、何か自分達が通常意識しても出来ない何かをした・・・という充実感を感じていたが、それが何だかは分かっていない。

演奏家は誰しもこのように、自分では予期せぬパフォーマンスを出す時がある、これを、実力以上の出来栄えとかいう評論家がいるがゼンさんはそれが実力だと思っている。

潜在的実力を出す瞬間・・・これにはある種の偶発という必然タイミングが必要なのだと。

ゼンさんは1993年のスペインの旅を思い出していた。幾度もいったスペインでもこの時は忘れられない夕日を見た。「スペインの夕日」とてつもなく大きい、赤い土とオリーブだけの大地に下りてゆく大きな、大きな夕日。

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この日この音を聴いた人達は皆顔に笑みがこぼれ、輝いていた。

<次回へと続く>

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