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2010年8月26日 (木)

エピソード36:「アフターアワーズ」の巻

<前回より続く>

ドラムの大野とヴォーカルのベテラン西郷がゼンさんを挟んで居間のソーファーに座っていた。

ゼンさんはCDをケニー・ドーハムの「クワイエット・ケニー」にかけかえた。

Dorham_001_4

「どうしようか、店のヴォーカルを」とゼンさんが切り出した。

「毎日大物ヴォーカルの出演というのも豪華でいいか」と西郷が無責任な話をした。

「でもその辺で毎日やっているような、前半ピアノトリオ、後半ヴォーカルの仕組みではつまらないな」と大野が言った。

西郷は勝手にヴァーボン、ジャック・ダニエルをオンザロックでやっている。大野とゼンさんは酒が飲めない、色鮮やかなクランベリージュースを初秋の夕日にかざしている。

夕陽がクランベリーの赤に写りこみ、綺麗なハレーションを起している、ケニー・ドーハムのペットの音も一緒に反射している。

ゼンさんがやおら言った「こうしよう、僕はヴォーカルを一から探して育てたいんだ、だから、オーディションをやろう」と。

「年齢不問、男女不問、国籍不問、プロでもアマでもいい、この店で歌いたい人を募集してオーディションし、数名選ぼう」と一気に話した。

「それって面白そうだな」「やろうよ」と二人が納得した。

審査員がいるけど、ここの三人のほかに、耳の肥えたジャズファンを加えようとゼンさんが言った。

「今夜来るんだ、丁度いいや頼もう」とゼンさんが加えた。

店を開ける時間になった、三人は中庭を横切って、店へ移動した。中庭にはゼンさんの愛車アルファがやはり夕陽に染まっていた。

「KIND OF BLUE」は既にスタッフは準備を終えていた。

厨房からは良い匂いがしている、「何の匂い?」と大野がシェフの長さんに聞いた。「ラザニアの匂い、これってイタリアはトスカーナ風の作りで結構いけると思うよ」と普段自慢しない長さんが言った。長さんは和風はもとよりイタリアンもできてしまう。

ゼンさんはクロークの脇にチラシを置いた。

「ヴォーカルオーディションのお知らせ」だ。

そこへ常連で能天気な船橋君一派がやってきた。「やあ、やあ、やあ」と・・。

「なんっだこれ、オーディションだって俺もでようかな・・」「貴方は書類審査で終わり」とヨーコが言った。

「私が受付だから書類は全部みるからね」とも言った。

バンドの三人も音あわせを始めた。

船橋君が声を潜めて「あれ誰?」とヨーコに聞いた。

客席の隅でゼンさんと見知らぬ人と話をしている、「わたしなんぞには・・・いやあ困ったな・・・」とか途切れ途切れに聴こえる。

ヨーコが「あれがコルトレーン研究家で有名はFUJIさんこと藤岡さんよ」と言ったとたん、船橋君が「エッ!あれが有名なFUJI!」と大声をあげた。

ゼンさんが「おい船橋君、頭が高いぞ、こちらにおられるのは、コルトレーンの世界的研究家、FUJI様なるぞ!わざわざ東京は六本木くんだりまでお出ましになられた、失礼の無いように」と言い放った。

「ああ、あのですか、この29回目のブログにコメントを書いて、着物姿で世界を飛び回り、ジャズフェスやライブハウスの楽屋を荒らしまわり・・じゃなくてお出入り自由で取材しまわりの、FUJIさまですか、失礼をしました!」と船橋君がひざまずいた。

「そうなのだ・・・あのコルトレーン・ハウスでも有名なあの方だ・・・」とゼンさんが周囲にも聴こえるように話した。

Fujiさんは満足そうな顔をして、またここでも水戸黄門ゴッコができるなと・・・内心思った。

すかざず、ゼンさんは、「ALL ACCSESS」と書いた特別のプラチナ・カードを作成してFujiさんに渡している・・・と言ってもアクセスする場所も無いが・・・。

そこへ、「しんじさん」「KAMI」「DUKE」さんが到着した。

「こんや楽しくなりそうですね」とゼンさんが振り向いたとき、常連の若手デザイナー、コシタ・テツコさんが見知らぬ女性を連れて入ってきた。

「いらっしゃいませ」と山ちゃんが席に案内している。

ゼンさんが近づくとテツコさんが、紹介した、「こちらは女講釈師の神田川黄昏さん、最近突然ジャズに興味をもったので是非生の音が聴きたいというのでお連れした次第、宜しく」と挨拶した。

タソガレさんが「まだなにも分からないので宜しく」と。

ドラムの大野が「ドシャーン、チキチン、チキチン」と凄いアップテンポのレガートを打ち始めた。

ベースの山田が、4ビートではないリフを繰り返した。

やおら河田吾郎が弾き出したのは「セプテンバー イン ザ レイン」だ。

シッカリしたリズムの上にシングルトーンでおなじみのメロディを乗せてゆく、ピアニッシモの音でもクリアーにスリリングに展開してゆく。

左手はたまにフィルインするくらいですすんでゆく、気持ちの良いテーマ展開だ。

皆がその音に集中している

3コーラスのソロを進めると徐々に音数が増え、パーカッシブなフレーズへと変化させてゆく。最近の河田の進歩がうかがえる。このようなアドリブはかつて、本田竹広のお得意だった。

ゼンさんの脳裏に一瞬、竹さんの思いでが浮かんだ。「おれは日本人だからな、日本人のフレーズでゆくぞ・・・」などと良く言っていた。晩年の本田竹広の音も浮かんできた。いまは河田がこうして本田を乗り越えようとしている。ゼンさんが心の中でつぶやいた「竹さん、またジロキチでトリステーゼをやりたいね」

演奏がすすんでゆく、今日は大野がトップシンバルにパイステを使っている。スイス製のパイステはシンバル中心に盛り上がりの無いノッペラとしたフラットなシンバルで、スティックの音がクリアーに響く仕掛けになっている。これが小気味よいレガートとなって、スピード感が増す。

それにしても、このアップテンポであるに係わらず、河田のピアノは音数を落としてもスピード感をおとさず、少ない音で見事に表現している。

片隅に陣取ったうるさ方も集中している。ドラムとの4バースでフォルテッシモに盛り上がり、そして一気にピアニッシモのシングルトーンで最後のテーマに入った。思わず「イエィー」と声が出た。やはり声の主は富田さんだ、心得ている。

神田川黄昏さんの目も耳も釘付けになっているのが分かる。

次の曲が始まった、「I ONLY HAVE EYES FOR YOU」がスローで入った。一度目はシンプルに弾き、二度目はフェイクしてテーマを弾いた、そして最後の音から、テンポが倍になりミディアムなスイング感をだした、そして、やおら始まったメロディが「ANOTHER YOU」だ。

隅のほうで公爵さんが「やはりやったか」と言ったのが皆に聴こえた。

ゼンさんはニヤッとほくそ笑んだ、そして歌詞を口ずさんだ、「・・ANOTHER SPRING ANOTHER FALL・・・」・・・FALL・・「秋か、枯葉はやはりボビー・ティモンズのイントロがいいな」と変な連想をした。

KAMIさんが、「BLOGがリアルになる瞬間を聴きましたね」と言っている。

ゼンさんは内心、今日は休憩時間が大変そうだと思っていた。

公爵やら講釈師やら、何が飛び出すやら・・・・

Timmons_in_person

前半の最後に西郷の歌から入った。

西郷の歌はシンミリとはさせずに、少しバウンドさせるテンポとノリで軽快さをつけた「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」だ。

そして聴かせどこ、♪ARE YOU SMART~♪になり、末尾の「SMART」を思い切り延ばした、その延びている2小節の音のバックで河田のピアノがブルーノートを使ってスケールを猛スピードでディミニッシュ分解した。

ゼンさんが思わず「イェーッ」と・・・大きな声ではない、普通に話す声の大きさで言った。瞬間、聴く者と演奏する者が繋がった。会話の成立である。

<次回へと続く>

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