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2010年8月20日 (金)

エピソード33:「ジャズ・ヴォーカル企画」

<前回より続く>

お盆が過ぎても激しい暑さの日々が続いていた。水曜日の雨か、ライブハウスの入りは悪い。フロアーマネージャーのヤマちゃんが「今日はだめかな」とつぶやいていた。調理場の責任者、シェフの長さんが相変わらずドゥガッティの排気音を轟かせながらやってきた。

まだ開かない店「KIND OF BLUE」でゼンさんはドラムの大野と向き合って話しこんでいた。

「やってみようか、でも毎日ではなく、週末だけとかね」

「そうだね、方向性に少し色合いを持たせてもいいんじゃない」と大野が応えた。

「誰がいいかな、あまり大物でも反って雰囲気に合わないし、シットリ、大人の雰囲気でというと、贅沢な希望だけど・・」ゼンさんが悩んでいる。

週末にヴォーカルを入れようという話が進んでいた。

「大野君、来週までに考えておいてよ、候補者を」

「分かりました、二人で毎週末交互にというのでどうですか?」

「いいよ」

そこへ「おはようございます」とベースの山田が到着した。

ゼンさんが時計を見た、「もう6時過ぎか、じゃあ準備を始めよう」と腰を上げた。

7時の音だしの時、その日の最初の曲は「ON A CLEAR DAY I CAN SEE FOREVER」だった。

6時半を廻って急に常連がドヤドヤと入ってきた、音出しの7時には20人位の入りとなって、店の中は良い感じになってきた。見回すと、よくこの欄にコメントをくれる北海道のDUKEさん、そして「しんじさん」や埼玉から「KAMIさん」そして名古屋からはるばる「BASSCLEFさん」まで来ているではないか。皆さん元気そうだ。今夜のジャズ談義も弾みそうだ。

<ピーターソンの「ガールトーク」の一曲目でしたねON A CLEAR DAYは>

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河田吾郎はそんな雰囲気を読んでか、軽快なミディアムテンポで「ON A CLEAR DAY・・」を弾き始めた。

こんな時は音を出す前に構えず、ざわついている雰囲気のまま、ドーンと音を出すと、皆、シッカリと音の中に入ってくれる。

そんな出方が吾郎は好きだった。テーマが終わって、ソロに入る頃には皆の気持ちが聴く方に集中していい感じだ。今日の吾郎は何故かピーターソンタッチで饒舌な語り口で、派手なフレーズが多い、ドラムの大野もそれに合わせて、シンバルレガートを四つ打ちに変えてゆく。気持ち良いスイング感で、雨の水曜日は始まった。

休憩時間、ピアノ裏の丸テーブルにバンドのメンバー、ゼンさん、そして常連の富田さん、船橋君が集まって、来月から企画しているヴォーカルの話がはずんでいた。

船橋君が「あまり若い子は落ち着かないな」といい、富田さんが「やはり英語の歌だからね、聴ける歌でないと興ざめになるよ」と厳しい注文をつけていた。

ゼンさんが「そうだね、与世山澄子みたいなボーカルがいないかな」とつぶやいた。

船橋くんが「誰ですか?それ」

富田さんが「うん、沖縄にいるジャズヴォーカルでね、一言いって上手い、上手いって歌唱法ではないんだ、歌詞の意味、雰囲気を上手く表現できるという意味でね」

「そうだね、彼女の歌は聴いているだけで自然に涙が出てくるよね。1983年頃かな、あまり沖縄からは出てこなかった彼女が東京のライブハウスで歌う事になったんだ、誰もよく知らない、でも初めて聴いて、誰もがこれは凄いという印象でね、その年の暮れに急遽コンサートとなり、中野サンプラザを満員にしてしまった。

休憩時間にはロビーで皆、涙目でね、歌を素直に聴いているだけでどうして涙がでるのと・・若いヴォーカルの子達がやミュージシャンが口をそろえて話していたっけ」とゼンさんが加えた。

Introducing

「それからの評判は広まるばかり、アッと言う間にレコードが出て、そしてマル・ウヲルドロンと共演と・・立て続けだった」

船橋君が「何処に行けば聴けるのですか」

ゼンさんが「沖縄の那覇、インタールードという店を彼女は持っているから、そこへ行けば聴けるよ」

「そうか、今度沖縄へ行ったら必ず寄ってこよう」と船橋君が言った。

「彼女は沖縄で苦労し、キャンプで歌っていたから、発音もいいし、歌の解釈もできている、鍛えられたんだね」と富田さん。

吾郎が「ところでゼンさんはヴォーカルは誰が好きなんですか?」

当然、僕がすきなのは、サラ・ヴォーン、男ならマーク・マーフィーかジョニー・ハートマンかな」

大野が「ヴォーカルは奥が深いな」と意味深なことをいい出だした。

船橋君が「ビリー・ホリデイってどうなんですか」と聞いてきた。

ゼンさんが「うん、レディは良い悪いということでは無いんだ、彼女の生きてきた人生がジャズなんだ、人種差別と戦いながらというか、差別の中でね」

「だから、歌を聴いてもあまりハッピーではないよね、ブルーだよね」と吾郎がいい出した。

「僕は26歳の時にビリー・ホリディ物語という映画を観た、ダイアナ・ロスが演じていたやつね、あれでビリー・ホリディを理解したの、結構忠実な表現だったと思うよあの映画は」とゼンさんが話した。

「つらい物語だよね」と富田さんが加えた。

「そこへゆくとエラはまた明るいね、性格もあるし生き方も違うしね」ヨーコが横から口を挟んだ。

「あのスイング感はたまらないね、もうヴォーカルの域を超えている、彼女の歌は楽器だよ」と大野が話しだした。

「有名な録音は、エラ イン ベルリンのマック・ザ・ナイフだろうね、途中で歌詞を忘れて、スキャットに変えて、バックのポール・スミス トリオとのやりとりをしながら、スイングが止まらない、これで有名なレコードになったんだ」と富田さんの講釈が始まった。

「何故か大物歌手は歌詞をよく忘れるね、サラの実況盤で 「サンクス フォー ザ メモリー」を歌うんだけど、どうしても途中で歌詞が出てこない、5回くらいやり直すの、それが全部録音されていて、やっと思い出して、全部歌ってエンディングで歌詞を急遽作るんだ、♪今日のレコーディングは最悪だ♪という歌詞で終わる、そんなレコードもあるよ」とゼンさんが言った。

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そしてサラを語りだしたら止まらないゼンさんが「サラの最高は 枯葉の中のシーズンズ、ローランド・ハナのピアノとのコンビネーションがたまらなくいいんだ」と。

富田さんが急に思い出したように「そういえば、森山浩二ってヴォーカルがいたでしょ」

「いたね、男性ヴォーカルで上手かったね、日本版チェット・ベーカーかな、良い味出していたよね」とゼンさんが富田さんに応えた。

「ヘーェ、誰ですかそれ」とベースの山田君が聞いた。

ゼンさんが語り始めた「以前、1960年後半にTV初のオーディション番組でホイ ホイ ミュージックスクール という番組があってね、司会が鈴木やすし、バンドがドリフターズで、素人が何週か勝ち抜くとプロとして活躍できるという番組、そこで良い成績を出してプロになったのが、木の実ナナ、安田南、そしてこの森山浩二だった。みんな歌の上手い人だよね、安田南は今でもジャズ歌手として歌っているし、木の実ナナは大物ミュージカルスターにまでなった。安田南が印象的だったのは、マイク前に出てくる時に転んで出てきた、それがみんなの印象にあってよくからかわれていたよ。この森山浩二はその後ジャズ歌手になった、英語は全くできない、でもやたらに耳がいから全部耳で発音を聞き分け覚えてしまう。外人に彼は英語が出来ないというと驚いてね、あんな発音が出来て何故英語が話せないんだとね。僕は彼のマイ ファニー ヴァレンタインを真似して今でも歌えるよ」

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「よく覚えているね、ゼンさんは」と富田さんが驚いて言った。

よく見ると、テーブルの周囲に「DUKEさん」「しんじさん」や「KAMIさん」、「BASSCLEFさん」の顔も覗いて集まっている。

「うん、20年以上前にあいつに1万円貸したままだから」とゼンさんが言って大笑い、「さあ、次のステージだよ」とバンドの連中を即した。大野が「じゃあ何からやる?」「そうだね、じゃあ、モリタートから」と吾郎が洒落て答えた。

コメント欄にお出での皆さんも又来てください!

<次回へと続く>

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コメント

こんばんは、快調な更新で楽しませていただいてますよ~。

しかし水曜日に片道400キロを飛ばしての往復はさすがこたえました。
体力も財布にもです。今回はほろ酔いで盛り上がるボーカル談義に
ノンアルコール・ビールの拙者はもっぱら聞き入るばかりでしたが愉快な
バーチャル空間でした。

エラのマック・ザ・ナイフが出てましたがあれにはノックアウトされっぱなし、
インストで何回もこころみているんですがその都度イン・ベルリンが頭に浮かんで
どうにもならず、悔しいったらありゃしません。なんであんなにスイングするのか、
多分永遠のナゾかなと今は諦めの境地です(笑)。

しんじさん

コメントありがとうございます。
私も下戸ですので、ノンアルコール・ビール派です。
キリンかサントリーか!
サントリーに軍配を挙げたいのですが・・・サントリー「オール・フリー」が在庫なしで、困っております。

因みに、エラ・イン・ベルリンのマック・ザナイフが何故あんなにスイングするのか・・・エラの歌でスイングしないものが無い・・・のですが、あれは特に何故か・・リズムセクションが良いから・・これが大事であのバックはバツグンですね。
それと、素人がアレをスイングさせたい時の裏技は、転調です・・・あの歌長いですから2番まで歌ったって段々盛り上がって、そして半音上げて転調・・・これで結構スイング感が熱くなります。
アノ、転調・・プロに言わせると常套手段とか言いますが、我々素人がやると結構いけます。(笑)

これからも宜しくお願いします。

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