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2010年10月 8日 (金)

エピソード51:「いよいよレコーディング」

やはり、何かオリジナルが欲しいな」と富田さんが意見を述べた。

「オリジナルか、そうだな、出だしに、オリジナルのブルースでもいいか、河田吾郎が編曲した例のゴスペル、GOD BLESS HERで出て、テーマに続けて HARLEM BLUES と言うのはどうだろうか」大野が言った。

<「HARLEM BLUES」PHINEAS NEWBORN Jr.+REY BROWN+ELVIN JONES 1969年2月12、13日録音)>

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「河田がそれでゆこう、イメージができたから」と直ぐに反応した。

ゼンさんは成り行きを見守っていた、これでいい、事が自分の意見だけでなく、皆が創りだしてゆくことが嬉しかった。

「OK,では出だしをそれで決めて、それに続いて、決めた曲順でゆこう」ゼンさんが結んだ。

当日は昼過ぎから録音機材の搬入とセッティングが行われた。全て、録音技師、日本のヴァンゲルダーこと、K氏の指導で順調に進んだ。

川田や大野、山田も今日は早めに店に入った、多少レコーディングを意識しているらしい。

ゼンさんはレコーディングを意識しないいつものお店の雰囲気で音をとりたかった、だからスタッフにも常連客にも特別なアナウンスはしなかった。

エンジニアのKさんも「それがいい、いつ音をとったか分からないくらいがいい」と。

デザイナーのコシタ・テツコさんがイラストレーターの京子さんと一緒に入ってきた。

大きなバラの花束を抱えている。

「真紅のバラ、50本、いつもピアノの脇にあるバカラの花瓶に入れてね」とヨーコちゃんに指示している。

「どうしたの?」ゼンさんが聞いた。

「これをピアノの脇に置いて、そしてレコーディング中に写真を撮って、ジャケットに使うの」テツコさんが応えた。

「いいコントラストだ」とゼンさんが言った。

「いつもはピアノの脇には、真紅のバラが決まって飾ってあるでしょう、でも今日は特別だから50本にしたの、豪華でしょう」テツコさんが花瓶に挿しながら、長さを調節している。

「これは私からの差し入れだからね」とテツコさんが先回りして言った。

6時半になると、もう常連客で店内は満員になった。

「今日は録音中はオーダーができるの?」と船田君が聞いた。

「いつも通りだから、OKだよ、グラスの音やお皿の音が入っても関係ないからね」とヤマちゃんが言っている。

「拍手も歓声も掛け声も、いつも通りでいいからね、意識しないでね」ゼンさんが皆に聞こえる声で言った。

ピアノの後ろでは、レギュラートリオが曲順の打ち合わせを、Kさんを加えてしている。

「ゼンさんが今日はマスターテープを長めに用意してと言ってくれたので、時間は気にしないでいいからね」Kさんが言った。

「ヘェー、ゼンさん大変だな、マスターテープって高価なんじゃない」大野が言った。

「そう、これをケチるプロデュサーが多いんだ、そうするとエンジニアも演奏者も苦労するんだ、特にジャズは良いソロが長引くことがあるけど、途中で切らなきゃならないなんて、音を録っていて苦しいものね」Kさんがテープをセットしながら話した。

「さすがBIGレーベルだ、録音にケチらない、良い仕事ができそうだ」Kさんが続けた。

<現在ではデジタル録音でメモリーで記録するため尺は無制限にちかい>

7時に音が出た。

最初に、河田が賛美歌をゴスペル風にアレンジした「GOD BLESS THE CHILD」静かな出だしだ、店内が何かこれから始るイヴェントに祈りを捧げているようだ、そしてやおら、泥臭いゴスペルブルース、「HARLEM BLUES」が始る。河田お得意の土の匂いのする、太い音でのBLUESだ。

PHINEASより少しスローなテンポで入ったのがまたいい感じだ。

そして二曲目の「HERE THAT RAINNY DAY」ミディアム・スイングになる。

このテーマが終わり、河田のソロに入ると、お客さんもリラックスし、気分が乗り始めた。

1、       HERE THAT RAINNY DAY(ミディアムスロー)

2、       BYE BYE BLACKBIRD(アップテンポ)はかなり早いテンポで始った。

演奏は白熱した、河田のソロはホリゾンタル・フレーズからブロックコーデのパーカッシヴな表現へと5コーラスを取った、続いてベースの山田君が2コーラス、続いて大野のドラムとピアノの4バースチェインジへと、最後の締めのテーマはスピード感を落とさずに、音量をピアニシイモに落とした。

最後は高音部のシングルトーンで締めた。思わず、「イェー」とそして歓声と拍手が自然発生的に起こった。

ライブ独特の良い緊張感と臨場感が撮れたに違いない、ゼンさんは確信した。

河田や大野が汗を拭いている、良い間だ、いかにもライブならではの間だ。

続いて、

3、       BAGS GROOVE(ミディアム ブルース)

通常のテンポだとライブではチョット ダルになるところを、普通より早めのテンポで、テーマをシングルトーンで小粋に纏めた。そしてメインのソロをベースに渡し、山田君をフィーチャリングした形となった。

4、       ラ・ヴィ・アン・ローズ(河田吾郎の希望、ガーナー風タッチでと)は河田のたっての希望だ。

不思議な無調キーのイントロを河田がソロでつくった。

キーを安定させると、やおらインテンポとなり、独特のビハンザビートに乗って、「ラ・ビ・アン・ローズ」のテーマが始った。

聴きなれたメロディは切ない哀愁を帯びて展開されてゆく、河田の得意なノリだ。

ゼンさんがこの瞬間心の中で「アッ、そうか」とつぶやいた。

テツコさんは曲目を見て、そしてこの曲を想定していたんだ。

思わず、ピアノの脇にある真紅のバラに目がいった。

お客さんの満足げな顔に満ち溢れている。

エンディングに続いて間を空けずに、テーマだ。

5、       ここで一旦クロージングの雰囲気(オール・ブルースのテーマ)

お客さんが話しを始める、リラックスしている、グラスの音、お店の雰囲気がでる、これがライブ録音の良いところだ。

<ミントンズ・ライブハウスの雰囲気、「エルスケン・ジャズ写真集」より>

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ここで一旦収録を止めた。

演奏者もお客さんも、スタッフも一息いれている。

「いいね、今日の出来は」と言う声が聞こえる。

30分のインターヴァルはあっと言う間に終わった。

Kさんは次の音を出すかなり前にONにした。次の音を出すまえの雑音も取りたいのだ。

その店の雑音の中から、ベースの弦を合わせる音、ドラムがスネアを叩き、ヘッドの張りをみる音、そんな音があって、やおら、次の曲が始った。

6、       ON A CLEARDAY(ミディアムファースト)

快適にスイングする。先ず、後半の出だしはいい、もう演奏者もお客もリラックスし、良い雰囲気だ。

ピアノのソロ、ベースのソロ、そしてドラムにも2コーラスのソロを・・最後に河田が独特のドライブ感で盛り上げた。演奏全体に強弱のコントラストが出た、これで後半にも締まりが出た良い音だ。

河田は次にちょっと間を空けた。

そしてピアノソロで曲を弾き始めた。

7、       RUBY MY DEAR(ミディアム)

セロニアス・モンク独特の世界を雰囲気を出して表現したかったのだろう、ピアニストがモンクの曲を弾く時はやはり意識をせざるをえない。

一切の無駄を排した、構成音、タイミング、シンコペーション、不思議な感じがするが、実はとても合理的なそして、唯一無二の音列、オリジナリティこそジャズだと思い、ビバップの典型を創り上げたモンクの曲を演奏する時は、やはりかまえる。これは良い緊張感だ。

その感覚がベースにもドラムにも伝わる。

特にこの曲は、モンクの曲の中でも、歌詞をつけやすい曲の一つで、ストーリー性を感じさせるメロディだ。河田は後半の中心にこの曲をおいた、そしてピアノのソロを中心に、3コーラスが終わって4コーラスの頭からベースとドラムが入った。

そしてトリオで3コーラスを弾き、最後にエンディングは再度ピアノソロになり最終音はテンションノートのままで終わった。

最終音を河田は押さえたまま、ピアノの音が消えるまでキーを押さえた。

お客さんは知っていた、拍手はその最後の一音が消えてから、静かに起きた。

お店の照明はいつも通り、キャンドルだけで、その瞬きのような光りに深みが出たように感じた。

いつもと違うのはピアノの後ろにある録音機材の所だけがスポットライトがミキシング・コントロールのレバーボードを照らしている。

8、       MY FUNNY VALLENTINE(スロー)

また前の曲とは対照的なメロデイを持つ曲だ。万人に愛されたこの曲は本来女性の気持ちを唄った曲だ、VALLENTINEという男を好きになった女性の気持ちを唄った。

如何にロマンティックに唄うか、でも切なく、うったえながら、今のままで充分、STAY!と唄う。今日は歌は無い、ピアノでこれを表現をする。

河田はこの曲を弾くときはいつも思い出して弾くシンガーいる。

与世山澄子を思い出す、沖縄が生んだ世界に通用する女性ジャズシンガー。

彼は与世山の歌を聴いたとき、不思議にも涙が出てきた。

<与世山澄子のアルバムより>

Introducing

何故だか分からない、特に感情移入が強いわけでもない、むしろ淡々と唄う、その淡々さの中に、「STAY LITTLE VALLENTINE~♪」と唄う本心を感じた、それにシンパシーを自然に感じたのだろう。

チェットの歌には説得力があり、チェットならではの世界を感じ、こちらも納得させられる。

どちらも良いが、河田は与世山の歌をいつも思い出して弾いている。

続いて、河田がまた、不思議な不協和音を弾き出した。そして、おなじみのテーマのメロへと持っていった同時に、ベースとドラムが4ビートでインテンポへもっていった。

9、       FOR ONCE IN MY LIFE(ミディアムファースト、ゼンさんの個人的テーマ)

ステーヴィー・ワンダーの曲でもありゼンさんが自分のテーマ曲として使っている曲だ。

ソロに入ってもあまりメロから離れずに、テーマをフェイクしてゆく、やがてブロックコードで厚みのあるサウンドで且つ早いパッセージを叩く、ベースもドラムも最高潮へとスイング感を運ぶ、ここで場内から拍手がきた、曲の山場をつくった、そして盛り上がった雰囲気をそのままにエンディングへと・・・・そしてB♭のこの曲のキーで最後の「THANKS FOR THE MEMORY」へと入っていった。

10、    THANKS FOR THE MEMORY(クロージングテーマ)

ボブ・ホープショウのテーマ曲で、ゲッツも吹いているが、何といってもサラ・ボーンのロンドンハウスでのライブ盤が良い・・・といっても、サラはレコードの中で、「今日は最低の録音」とアドリブで歌っている。

<サラ・ボーン、ロンドンハウスのジャケット>

サラはこの曲の歌詞を途中で忘れ、何度かやり直す、何回やってもそこで歌詞が出てこない、やっと思い出し、歌が続いてゆくが、アドリブで歌詞を代え、「最低の日」とやってのけるが・・・ライブの出来としては最高で、聴く者をひきつける。

これがライブの良さで、スタジオではありえない。

だから、ライブは止められない。

最後のテーマが終わって、歓声と拍手が続いた。

演奏者、第二の出演者であるお客さん、スタッフ、皆が満足した顔をしている。

ゼンさんも気持ちの良い疲労感を感じていた。

<これからも続く>

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