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2010年11月19日 (金)

エピソード66:「ジャズ無頼帖その1」の巻

<前回より続く・・・>

店の片付けも終わり、スタッフとハウストリオのメンバー、そして青紫朗も加わって母屋での夜食会となった。

この夜食会はすでにこの物語の初めの部分で度々登場している。

しかし、途中から読み始めた方の為に状況シーンを少々説明しよう。

ジャズクラブ「KIND OF BLUE」の入口とキャッシャー、クロークは一階にあり階段を降りて地下がライブハウスと厨房になっている。

一階は小さな洒落た小さな家という感じである。中庭を挟んで母屋があり二階建てでこの主人公ゼンさんの住まいだ。

中庭には、大きな欅が一本ドッシとたっている。ゼンさんの車二台とシェフの長さんのバイク、ドゥガッティーが停めてある。

母屋は扉を開けると、大きなリビングがあり、30人の食事会ができそうな広さと大きなテーブル、趣味の良い食器棚と食器、グラス類、シンプルなオーディオセット、ソファー、ホームバーが片隅に、そして以前ライブハウスで使っていた古いスタンウエイのコンサート・グランドが置いてある。

週に二度、スタッフが集まり夜食会を行う、簡単で美味しい賄い料理をつくってくれるのは、シェフの長さん、そしてスタッフの二人、ギャルソンの山ちゃんとキャッシャーのヨーコちゃんだ。

これに、レギュラートリオの面々が加わる。

このジャズクラブはご存知のように、ゼンさんが主宰する株の投資で経営・運営をしている。

お客さんからのチャージだけではこれだけのジャズクラブを隆々とやっていける訳がない。

そう、株で稼いで、経営上の運転資金を賄っている。

ジャズクラブや株投資をやっている会社を「BLUE IN GREEN 社」という、略して「BIG」という会社だ。スタッフの面々も少額ながら出資している。

そして、タップリと給与と配当を受けている。

ここの夜食会がいつも投資先相談会議の場であり、投資状況の報告の場でもある。

「どうだろうか、今日は青紫朗こと太田君が参加している、新年会でもあり昨年末の他のジャズクラブの話など聞きたいと思うのだが・・」とゼンさんが切り出した。

「ききたいなぁ」と山ちゃんが言い出した。

食卓には3種のパスタと5種ほどのチーズがもってあった。

「今日は正月だ、シャトー・ラトゥール97年でも開けるか」とゼンさんが山ちゃんに指示した。

バカラのワイングラスが何気なく配られ、乾杯となった。

「じゃあ、少し話してみようか」と青紫朗が話し出した。

音楽はエセル・エニスがかかっている。

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それは暮れの横浜での話なんだ・・・・。

俺は昔よく通ったジャズクラブがあるはずだと探しに行ったがもう見つからなかった。

そう20年も経てば変わるさ。

そこでその傍にあったジャズクラブに飛び込んだ、「D」というクラブだ。

内装もまあまあ、当日の演奏者というかメンバーはここによく出ている名で、ピアノトリオだ。

見るからに真面目な若いジャズ研究者という様相だった。

演奏技術は稚拙でもいいからマインドのいい音やフレーズが聴きたいものだと入っていた。

店のヤツは俺の格好を見て一瞬引いたが、ジャズクラブには変なヤツもよく来る、何も無かった様に6分ほど埋まった席の一つに案内された。

俺は、先ず、いつもの通り、ドライマティーニを注文した、そう「ドライだぜ」と念を押してね。ドライマティーニという酒は戦いの前に飲む酒さ。

「ジンは一滴でいい」とも付け加えた。

やがて演奏が始った、そのトリオは二曲ばかりスタンダードを演奏した、そして一人の若い女性ヴォーカルが出てきた。

まだ、歌いはじめで、歌の歌い方にその若さが出ていた、でもそれも真面目に歌おうという気持ちが伝わったので、まあいいかと、マティーニを舐めていた。

最初の曲「There Will Never Be Another You」をミディアムテンポで歌い終えた。

その時、店の奥でなにやら騒がしい一団が、「リクエストだ」という声も聞こえた。

ジャズクラブでリクエストとは随分無粋な奴らだなと思った。

でも、その歌手はなにやらおびえ気味にその方向を見ている。

「You Be So・・・」と「柳・・・」をやれと酔って言っている。

普通は無視であるが、若いヴォーカルはそっとピアノの彼をみた。

ピアノ君は少しうなずいて、「You Be So Nice Come Home To 」のイントロを弾き始めた。

しかし、このヴォーカル嬢にはこの歌は似合わないし、先ず歌いたいという気がない。

いやいや歌っているのがミエミエである。

「やはりこれだよな****」という声が聞こえた。

近くを通った店のスタッフを呼び止めた、マティーニのお代わりを頼みついでに聞いた。

「あれは何者なんだ」「えーー、少し言葉に詰まったが、声を一層低くして、ちょっと恐い人たちで、あの子のファンでいつもあの子が出るとやってくるんです、騒がしくてすみません」と申し訳なさそうな顔をした。

「おい、どした、次ぎは柳だ、あのウイロウ何とかだ!」とどなっている。

俺はそっと脇差から篠笛を抜いて、ピアノの傍に行った、そして言ったんだ。

「俺も参加させてくれ、悪いようにはしないさ、君はこの歌知っているのか?」とヴォーカルに聞いた。「なんとか歌詞は・・・」

「まあいいさ、おれは勝手につけるから、任せておけ、そして君たちの自由にやれよ」

そう言われてピアノ君もヴォーカル嬢もベースやドラム君達も、「じゃあやろうか」という顔になった。

「おい、なんだ今度は笛も加わるのか」「なんだアイツの格好は、ポニーテールちょんまげに、青紫の着物・・・変な格好だな」「いいからささっとやれ!」

「WILLOW WEEP FOR ME」のイントロはピアノがつけた。

そしてテーマの歌に入った、このブルージー満点な曲に俺は篠笛で、かすかにブルーノート・フレーズを絡めた。

歌がノリだした、無意識にフェイクする音が見つかるらしい、よりブルージーな装飾音が自然に入る。

俺は小声で、“グッド”と言ってやった。彼女はニヤと笑って歌を終えた。

続いてピアノがソロをとった、俺は2コーラス目からバックリフをつけた、3コーラス目にはピアノ君のソロフレーズに篠笛を絡めていった、ピアノ君は俺の顔見て次には途轍もないフリキーなフレーズを弾き始めた、「いいぜ」と小声で囁いてやった、ベースもドラムも自然に音の中に入っている。

ドラムのレガートとベースがピタリと一致している、これはやろうと思ってできることではないが、相手の音を自然に聴けるときは自然に一致するものなのだ。

4コーラス目で俺はピアノ君のソロさせたまま、篠笛のソロをかぶせていった。

演奏全体が大きくスイングしだした、それまでのシンバルレガートとベースの4ビートによる刻みとは違うもっと大きな弧を描いたスイング感になっていった。

笛の音色は澄みわたり、研ぎすまされ、大きなスイングの弧の上で空気を切り裂くような一音を発した。

いままで騒いでいた集団が皆何事かとバンドに注目し、目が点になっていた、口は間抜けにも空いていた。

早いフレーズ、キレのよい音、篠笛独特の音程の不安定さもなく、一本の光りのような音色が空中を飛び回り始めた、目を閉じるとまるで100色の色彩をもった星がちりばめられているようだ。

低音から最高音まで半音階づつ素早くせりあがった、その瞬間、その店全体が大きく揺れ出したように感じた。

あの恐いお兄さんの集団は立ち上がって何か言おうとしているが、立ち上がれないでフラフラしている。

俺はテンションをすこし緩めて、歌に戻した、ヴォーカル嬢はどこから入るか普通ならかなり難しい状況だったが、我々の演奏をしっかりと追ってきたのだろう、素直にテーマに入った。

お客もお店のスタッフも皆時間が止ったような顔をしていた。

そして暫しの間のあと、大きな拍手がきた・・・がアノ集団だけは白けた顔をして不満そうだった。

俺は席に戻った、そして冷えたマティーニを一気に飲み干した。

ピアノ君が傍にやってきた、「ありがとうございます」礼儀正しく挨拶をした。

そして「あんな笛、聴いたことないです」とも付け加えた、そして傍らにあった、細長い筒をみて「ソプラノも吹くのですか・・」と。

その時、例の集団がヴォーカル嬢を呼んでいた、親分格と見られる男が「おう、もう仕事を終わりにして食事に付き合えよ」などと言っている。「もうあんな音楽やるなよ、うるさいだけじゃないか、話もできないぜ」と若いものが言う。

「あいつら何なんだ」と俺は再度ピアノ君に聞いた。

「あれは地元のヤクザさんでね、暴れるわけではないけど、ジャズが好きだとか、あの親分みたいな人、横野さんっていうらしいけど・・、いつも歌のあの子がお目当てで、でも迷惑みたいで、逃げているけど・・結構うるさいんだ、それで店はいつも料金はダータ(無料)でね、おまけにミカジメ料っていうのかな、お店が渡して引き取ってもらっているらしい」

「アイツラが来ていると、演奏をやる気が失せてしまってね、やっていてもみな乗り気では無くなってしまうんだ」とも言った。

青紫朗は静かに立ち上がると彼らに近づいていった。

「もういいだろう、十分に飲んだらしいし、お前達が音楽を聴く場所じゃないな、ここは」と親分格の人物に言った。

一瞬、周囲が色めきたった。

「なにを!このチョンマゲ野郎!」と若い一人が詰め寄った。

「兄貴、どうします?」

「・・・・どこかで見た顔だな・・・」親分格の兄貴と呼ばれた男がつぶやいた。

「旦那、お久しぶりです、その節はお世話になりました」と丁寧な挨拶をした。

そして「さああ、帰るぜ」と号令をかけた。

「まだ帰さない、ちゃんと料金を払って帰れよ、ツリはチップだよな、リクエストまでしているんだから」そう念を押した。

傍でマスターが縮こまってただ立っているだけだった。

「これで」と1万円札を5枚ほど置いて、足早に立ち去った。

他のお客もスタッフもただじっと見ているだけだった。

マスターが恐々と話かけた、「また仕返しにくるのでは?」

「いや、来ない、二度とこの店には来ない」と自信をもって言い切った。

「さあ、次のステージでも一曲お手合わせしてもらおうか」

<次回へと続く・・・>

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