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2011年1月20日 (木)

エピソード76: Introducing “Trisonique”

<前回より続く>

お知らせ!

2011年1月19日に「Trisonique」というCDアルバムの新譜発売がある。

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このグループの名前はあまり知られていないが、メンバーの名前を記せばジャズファンなら良くご存知の三人の名前が登場する。

リーダー&ピアノ:ハクエイ・キム、ベース:杉本智和、ドラム:大槻“カルタ”英宣。

この名手三人がハクエイ・キムの趣旨に意気投合し旗揚げをしたのは2009年10月(Jz Brat)であった。それに先立ってハクエイ君よりフリーな表現手法で自己を表現してみたいと聞かされたのは2009年7月であった。

そして、アンドリュー・ヒルのアルバムを貸して欲しいと言われ、6枚くらいのヒルのアルバムを貸した。この時、彼が何をしたいのか薄々分かった。

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彼はリーダーアルバムをオーストラリアの修行時代の仲間と3枚発表している。その中でも彼は自己の創造する世界をオリジナル曲にして発表していた。彼のそんな作品の一つ「Shadow of Time」というアルバムを、彼のコンセプトとたたき出す音色が一致した優れた作品として私は「ジャズ批評誌」に紹介している。

表現者としてのジャズアーティストが自己の趣くままにその世界を描きたい、それも方向性を同じくする理解者、協力者を得てトリオという構成で演じられれば一層その表現世界が広がりと深さを持つと考えるのは自然なことである。

しかし、“Trisonique”旗揚げの時の演奏内容は演奏者のコンセプトが先行し、音が纏まらず、聴衆にいまひとつ浸透しない消化不良を筆者は感じた。

「やりたいことは良く解る、しかしその考えが音となってグルーブして来ないではないか・・・」と率直に感じたのである。

このグループ「Trisonique」はその後全国へ演奏旅行を行った。2010年6月まで都合10回以上の演奏を行った。その間にこのグループのコンセプトと音、つまり「概念」と「現実」は徐々に結晶し昇華していった。

2010年6月、ツアーに一区切りをつける公演が行われたが、この時のこのグループの音(サウンド)は完全に三者一体となり融合され“一つの音”となってグルーブするまでに完成していた。

自己満足的なフリーではなく、聴く者の身体に響き、揺るがすサウンドと化していた。

フリーというフォーマットはともすれば、奏者の思いと音が勝手に一人歩きし、聴き手の手の届かない所へ行ってしまう危険をはらんでいる。

しかし、この“Trisonique”の“Sound”は聴き手を包み込む力を持っている。

その力とは「衝動と抑制のバランス」である。

このグループ名と同じ題名曲“Trisonique”は常に心地よく響く通奏低音と表現が帰結すべきモチーフがあり、この上での息の合ったフリーな表現(パフォーマンス)は大きくスイングしゆり籠に乗っているようである。

そして5絃ベースの最高音の囀りから始まる“Kuala Lumpur”は空気と温度を感じさせる、一幅の絵画を見ているようである。

三人のキャリアはそれぞれもう中堅、ベテランのアーティストで個々の技術力や表現力については書くに及ばない。

既に完成されたアーティスト三人が集まって何を表現するかが肝心なポイントであった。

サウンドは時として煌き、さざめき、揺らぎ、透き通る。

ハクエイ・キムのピアノは数年前のクリスタルな透明感より光りが増し、輝きのみではなく、スモーキーな音も交えての表現へと広がりを見せている。

大槻“カルタ”英宣のドラミングはこのグループのグルーブ感の原点である。ある時はとてつもなく大きな揺らぎを叩き出し、ある時は繊細でメロディックなドラミングを展開する。

杉本智和のベースは常に基盤となるフォーマットを提示しながらも自由度を増し、ピアノへドラムへと絡み、融合してゆく。

エバンスでもなくジャレットでも無い、今までに無いユニークなグループサウンドがここに完成したと言って良いだろう。

私は“Trisonique”=“Tri”+“Sonic”+“Unique”と分解した。

そして、このグループはここに完成したので、此処からがスタートで楽しみであると言った方が良いと思う。

2011年1月に発売予定のこのグループの新譜は、ライブ演奏にはない、スタジオで構成され完成された「美」と「力」をもった作品に仕上がっている。

ジャズクラブやコンサートで聴く“Trisonique”とはまた別の味を楽しむことができる。

蛇足ながら、光栄にも、このCDのライナーノーツのスペシャル・サンクスの欄には私の名前も列せられている。

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